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ミナライの旅  作者: 燕屋ふくろう
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静かな日

「なあ、ミナライ。今日は何が食べたい?」

「それ、昨日も言わなかった?」

「そうだったか?いやしかし、オマエはあまり表情が変わらんな」

「船長はそもそも顔がないじゃんか」

「確かにな。困ったものだ」



 船長がからからと笑う。ミナライのジブンと船長、そして十数匹のモンスターを乗せた船が海を走っていく。

 モンスターと過ごすのはイヤだけど、ミナライと呼ばれることには慣れてきた。


 この船に乗ってから、月が2回丸くなった。その前のことは、あまり思い出したくない。だから今日も、船長と話をしたり薪を運んだりして気を紛らわさないといけない。


 船員のヤツらは、見習いのくせに大した仕事をしていないことも、ジブンが人間なことにも、口を出さない。それどころか距離をおいて、目も合わせないようにしていて必死に見えるほどだった。


 過ごしやすかったのに、最近はうるさく話しかけてくるようになった。村の人に教わった通り、モンスターはイヤなヤツばかりだ。でも、船長のそばにいたらいくらか安心していられる。



「島に近づいてきたぞ。風を送れ」



 船長の掛け声に合わせて、船員が魔法で船を進める。今日は島に辿り着くために船を出したから、やっとゴールだ。



「島なんてひさびさだね」

「良い海域に入れたのかもしれないな」



 下りた島にモンスターがいることはあっても、人がいたことはない。まだ、世界のほんの少ししか旅をできていない。世界は広いと言うから、焦らなくてもいいのかもしれないけれど。



「この島は大丈夫そうだ。冒険に行くぞ」



 合図をされたみたいに、船員が腕と声を上げる。ジブンも続いた。島に下りられるのは、船長が「良い」と言った時だけだ。とはいえ、船の端っこから島を見るだけじゃ安全かどうかなんてわからないだろう。

 こんなにテキトーで、なんで船長なんてやれているんだろう。このモンスターはやっぱり、変だ。



「ミナライ、行くぞ」



 船長に呼ばれて、島の方へ走る。今日は船長が、ミナライも島に来ていいって言ってくれて良かった。留守番ばかりはヒマだから。


 風が気持ちいい。海の上とは違う空気をいっぱいに吸い込む。船長が勢いよく剣をかついで、隣に並んだ。



「さあ、行こう」



 そこが船じゃなくても、船長の言葉ですべてが始まる。


*


「まったく、お前はもっと見習いとしての自覚を持て。船長の後ろに下がっていたらどうなんだ」

「ごめんってば」



 木箱に座りながら、下を向く。島の中でつい、船長より先に行ったせいでケガをして船に戻された。はしゃぎすぎた。もっと島にいたかった。


 船に戻っても楽しいことなんて何もない。しかも手当て係がスケルトンだなんて、ついてない。コイツは説教が長い。船長にも後で怒られることだろう。



「ケガをしたのは腕だけか?」



 頷く。島にいたモンスターがいきなり飛びかかってきてできた傷だ。痛がって声をあげたら、船長が飛んできてソイツを引っとらえた。こんなケガは村にいた頃はいくつもしていたのに、船長は大げさだ。

 モヤモヤしていたら、島の方から何か聞こえてきた。



「ミナライ、駄目だ、待て」



 こっそり聞いていたのがバレたのか、スケルトンは大急ぎでジブンの耳をふさいできた。ホネの細い手では、ジブンの耳をふさぎきれない。それでも、スケルトンは力を込め続けている。

 ホネが重なり合う、子気味良い音がする。



「何も聞かないでいい。聞かないでくれ。頼むから」



 ホネではふせぎきれない音が、向こうからうなってくる。なんでこんなに辛そうなんだろう。



「変な音だな。なんだろうな」

「さあ。なにか叩いてるみたいだが」



 船番のヤツらも音に気づいたみたいだけど、それが何かはわからないみたいだ。ジブンもこの音が何なのかは知らない。でも、前にも聞いたことがある。


 それより今は、スケルトンが大変だ。見習いらしくないけど、頭を撫でて落ち着かせてあげよう。



「大丈夫。何も聞いてないよ」



 それを聞くと、スケルトンはぐったりとうなだれた。したっぱのジブンに頭を垂れるものじゃないと思ったけど、言わないでおく。

 にぶい音は、鳴りやまない。


*


 あの後、自分の部屋で夜を明かしてから外に出ると、ジブンを怪我させたモンスターを引き連れて、船長と船員たちが戻ってきていた。


 船長は今日も、リーダーらしくふるまっている。船員は、そわそわしているのを隠そうとしているように見える。こんな様子の、変な朝にもだんだんと慣れてきた。



「ミナライ、どうした?」

「シーンとしてるなって」

「今日は海が穏やかだからな。波の音も僅かなものだ」

「そうじゃなくてさ。昨日の変な音、今日はしないよね」

「変な音?」

「バシ、バシッ、みたいな」

「わからんな。オマエたちも聞いたのか?」

「聞こえはしたけど」



 皆、なんとも言えないことを言うばかりで知らないみたいだ。苦い顔に目を逸らしたり、合点がいったようにも見えるけど気のせいなんだろうか。昨日がうるさかった分、静かに思えるだけではないと思う。船員が黙っているからだ。たまにこういうことがあるけど、どうしてかはわからない。


 船長がジブンのそばにいる時は静かなことが多い気がする。昨日もそうだった。

 船長が何かしているんだろうと思って、船員に聞いても話してくれたことがない。


 そのせいでいつもイライラしながら寝ている。そうして朝が来て、甲板に出れば船長がいる。



「今日もみんな元気に、誰も欠けずに旅に出よう」



 まばらに返事があがった。船長はいつも妙なことを言っている。ジブンはどうしても、この言葉には返事ができない。


 村から離れたままじゃ明るい気持ちにならないし、「今日も」なんて言っているけどジブンはモンスターなんかとずっといっしょにいる気はない。


 船長はこのことを知らない。いつか、確認するようなことを聞いてきそうでイヤだ。わざわざ嘘を吐いてまで話を合わせたくない。



「昨日はいい冒険ができたな」

「そうだね」



 今日初めて船を出す時だというのに、ジブンと船長以外は誰も喋らない。今日はこのまま、静かなままだといいな。

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