人生開始の革命前夜
もう連載続かないし、短編でいいかなって ^^;
冷房が効いた部屋の中、パソコンのキーボードを弾く音だけが響いていた。
キーボードを弾くのは16歳ぐらいの男で、平日の昼である今家にいることから不登校だろうことが予想された。
「……つまらない」
男はプレイしていたゲームをやめ、椅子にもたれかかったまま目を瞑った。
(俺の人生は何の為にあるのだろうか……)
その男は天才だった。簡単な授業を受ければそれだけで応用問題も解くことができ、運動をすればその道一筋でやってきた人さえ上回ってしまう。
子供の頃は親からは天才だと褒められ、甘やかされ、周りからは称賛の声が浴びせられていた。
だが、歳を重ねるにつれ、周りからは嫉妬の目線や、陰口を囁かれ、寄ってくる女は自分の価値を高める為にやってくる奴ばかり。
男は段々と人間を信じることができなくなり、挙げ句の果てには親さえも疑うようになり、1人暮らしを始めた。
「俺の人生とは何のためにあるんだ」
答えが返って来るわけでもなく、問いかけた言葉は虚空に消えた。
男が目を覚ましたのは深夜2時。殆ど真っ暗な景色に男は警戒をする。
「ここはどこだ……」
(俺は自分の部屋で寝ていた筈だ、こんな場所俺は知らない。なら何があった、誘拐か?いや、それなら周りに見張り一人もいないのはおかしいし、拘束もされていないから違う。ならこれは明晰夢だったりするのか?)
男は頬をつねってみるがちゃんと痛みはする。
(痛みはあるし夢ではなさそうだ。ならここはどこなんだ?)
「それについては俺から話そう」
「!!」
そこには趣味の悪い帽子を被った男がいた。
(気配はなかった!なんだこの男は、まるでいきなりそこから現れたような……)
「その通りだよ」
「!!」
(心を読んでるのか……)
「そう、俺は心を読んでいるのだよ」
「……お前何者だ」
「俺か?俺はそうだな……君の別人格ってとこかな」
「別人格……」
「そう、俺は君の中にある人格の1つなのさ」
「だが、俺は2重人格なんかじゃないぞ」
「いや、君は多重人格者さ。それは君に限ってじゃない。人間皆多重人格者なのさ」
「どういうことだ」
「簡単に説明すると俺らには大きな1つの人格があるのさ。そして、その軸から枝分かれした多くの線が他の人格があるのさ」
「……2重人格者はその枝分かれした線が異様に大きくなった結果ということか?」
「その通り!やっぱ頭いいね俺」
「自画自賛にしか聞こえんやめろ。で、その人格様が俺になんのようだ」
「うん……ずばり俺にその体譲ってくれない?」
「何……?」
「だって君は怠惰に生きているだけで、生きる意味さえ見出だせないんでしょ?それなら俺にその体頂戴よ」
「……無理だ」
「ふむ……。どうしてだい?」
「俺は俺が生まれてきた意味を探すという課題がまだ終わっていない」
「その課題を俺が変わりにやってあげるって言ってるのさ。悪い話じゃないでしょ?もうこんな息苦しい世界にいなくていいんだよ?」
「……そうだな、確かにこの世界は馬鹿馬鹿しい程にどうしようもない」
「そうでしょ?君の居場所はそんな世界に消されちゃったもんね。だから俺が変わって「だが、」」
「俺はそんな世界だからこそ俺の生きる意味はなくならないのさ」
「……どういうことだ?」
「俺はこの3年間ずっと考えていたんだ。この世界は何の為に今も存続しているか。俺はなそれは自分の生まれた意味を探すためだと考えたんだ」
「そんなの見つからない答えじゃないか!」
「そうさ。答えなんて最初から作られていないさ」
「ならどうしてこの正解が無い世界を生きようとするのさ!」
「正解が無いからこそいいんじゃないか」
「どういうことだ……」
「正解なんてあったらそれを見つけてしまったら俺らは何をするために生きていくのさ」
「それは自分のしたいことをすれば……」
「しないさ、皆揃って自殺するさ」
「そんなわけない!他にもやることはあるだろ!」
「いいや行き着く先は全て似たようなことさ。人間自分の生まれてきた意味を知り、その意味が無くなったら本当に自分が今この世界にいる意味が無くなってしまい、この世界に絶望する。そして、自殺するんだ」
「…………そうか…お前の答えは出たんだな」
「あぁ」
「頭の良い君ならもう気づいているんだろうが、俺は君の生きたいという願いが消えかけたことによって出来た人格であり、ここは君の心の中だ。俺は君が答えが出なかったら君を消す予定だった」
「それは怖いな」
「だが、君は生きるための答えを出し、生きる活力を得た。もうここにいる意味は無いだろう後ろの扉から出ていきなさい」
男が指差した先には先程までなかった扉があった。
「最後に一言俺から言いたいことがある、……ありがとう」
「君が俺に礼を送るっていうのもおかしい話だが受け取ったよ」
「……じゃあな」
「うん、それじゃあね」
男が扉を潜ると男がいた世界は無かったかのように消えた。
男が目を覚ますとそこは自分が寝た場所だった。
「さっきのは夢……いや違うな」
男の目の先にはあの男が被っていた帽子があった。
「……よし、久しぶりに学校行くか」
男は3年ぶりに外の世界に足を踏み出したのでした。
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