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伊達政宗、暗号解読は伊達じゃない その壱

 戦。それは成り上がりの戦国時代で非常に重要なものだ。元服をしてすぐの俺だが、早くも戦をしていた。それも、盤上で......。

 現在、戦国時代の遊びで俺が一番楽しいと感じた将棋を指しているところだった。

「小十郎! 前より腕を上げているなっ!」

「そんなことはありません、若様」

「いや、確実に腕を上げたぞ」

 俺と小十郎がわいわい将棋を指していると、横やりが入った。屋代景頼やしろかげよりだ。

 景頼は俺が元服してすぐに俺の側近となった者だ。彼は輝宗によって選ばれて俺の付き人になっている。

「若様。元服なさったのですし、武術を習いましょう」

「剣術か!」

「さようです」

「刀で敵を討つより、弓矢鉄砲槍の方が戦では十分役に立つ」

「武士はどんな時も刀を携帯します。刀の扱い方を覚えておいて損はないかと......」

「ふむ」考えてみると、確かに景頼の言うとおり覚えて損はないはずだな。「よし。稽古をつけてくれ」

 と言ったまでならよかった。しかし、この稽古というのが想像以上に辛かった。早々に抜けた。

「若様! まだまだです!」

「いや、無理! 疲れた」

 景頼はため息をついて俺を見つめた。彼にはかわいそうだが、俺は現代人だ。刀をうまく扱えるわけがない。

「なあ、景頼。明日も稽古やるから今日はこれくらいでよくないか?」

「明日もやるのですね? それなら、今日のところはこれまでにしましょうか」

 俺は安堵のため息をもらすと、地に尻餅をついた。すると、誰かがこちらに走ってくる振動が伝わってきた。その方向を見ると、小十郎だった。

「どうしたんだ、小十郎」

「お屋形様が若様をお呼びになっておられます」

「父上か。私は休む暇がないというわけだな。本丸御殿か?」

「はい」

「小十郎と景頼も着いてこい」

 二人を引き連れて、本丸御殿に向かった。

「父上。お呼びでございますか?」

「そうだ」

「何用で?」

「矢文が投げ込まれていたんだ」

「矢文、ですか?」

 矢文......矢の先に手紙をつけて飛ばす奴か。

「その(ふみ)に書かれた言語は解読不可能。つまり、暗号というものだ。

 つい先日、政宗は忍者がこの城内に侵入したと言っておった。その忍者の文ではないかと思う」

「私もそう思います」

「さて。ここからが本題だ。政宗には、この暗号の解読を頼みたい」

 この時代のだということは、漢文で構築されているということか。俺、漢文まったく読めないんだけど。

「父上。まずは例の文を見せていただけませんか?」

「......これだ」

 輝宗から紙を受け取った。眺めてみたが、漢文すらわからない俺がこの暗号的なものを解読出来るはずがない。しかし、これは輝宗からの信頼度を上げるチャンスだ。

「わかりました。この政宗、必ずや暗号を解読してみせましょう」

 輝宗は無言でうなずいた。俺は暗号文を大切に持ち、本丸御殿を出た。

 小十郎と景頼が前で待っていた。

 小十郎は、俺が脇に抱えていた紙に目を向けた。「どうでしたか、若様?」

「矢文の文が暗号だから、解読してほしいそうだ。ここではくわしくは話せない。私の部屋に行こう」

 盗み聞きされる心配のない自室に行くと、小十郎と景頼を入れた。

「小十郎は知っていると思うが、俺は漢文が読めない。暗号解読の前に、まずは漢文を習ってみたいのだが?」

 俺は漢文が読めないから、小十郎に読ませたり代筆をさせていた。

 しかし、伊達政宗は戦国武将としては珍しく、直筆の書簡が数多く残っている。まあ、つまり代筆じゃなくて直筆が多かったわけだ。これを機に、漢文を勉強するのも悪くはないとは思う。

「では、漢文の勉強を始めましょう」

 今日は一日中、きっちりと景頼に漢文を教えられた。明日、また刀の稽古をするのかと思うと、伊達家嫡男の政宗が楽ではなかったことがよく伝わった。

 あくびをしながら寝床に潜り込むと、消灯する。だが、頭の中は暗号でいっぱいだった。

 内容は


『至到景光輝

 耀京桂折衝

 殺生摂政絶

 説悦閲謁宗

 棟戒快甲斐

 政易杏庵安

 案爽層双惣

 宇卯右簡官

 艦寛維意以

 桟傘惨酸原』


 というものだ。漢文を習ってからだからわかるが、本当に意味不明な分列だ。

 まずは一文字飛ばして読んでみよう。すると、『至景輝京折殺摂絶悦謁棟快斐易庵案層惣卯簡艦維以傘酸』。はてさっぱりわからない。


 朝、目が覚めた。昨日は寝床で暗号を解読しようと試みて、眠ってしまったようだ。上半身を起こした。

「ふぁー!」

 腕を上げると、伸びをした。寝起きの伸びは気持ちがよいものだ。

 最近よく思うものなのだが、転生した奴って大抵チートじゃん。だけど、この世界は魔法もないしチートでもない。異世界転生をアーティネスに望むべきだったかな。

 その後、景頼と昨日約束した稽古をして、やっと暗号解読に移行出来る。数が多い方がいいし、小十郎と景頼も呼んである。

「まず、私が暗号の記法を述べていこう」

「若様は暗号解読も出来るのですね!」

「いや、それは違うぞ小十郎。10年くらい前に忍者の古文書が暗号化されていたから、半年かけて暗号について研究して解読したんだよ」

「10年前、ですか? その頃は若様は0歳ではないでしょうか?」

 しまった! 前世で死ぬちょっと前の話しだった!

「......間違えた。5年! そう、5年前だな」

「5歳の時にですか! さすが若様」

 俺は額から垂れた汗を袖で拭って、矢文を床に広げた。暗号解読スタートである。

 私にとっては、古文が暗号のようなものなのですが、主人公はすごいですね。

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