伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その弐漆
戦国時代の環境に順応し過ぎて、周囲を囲まれていても動揺しなくなってきたな。いや、少しは緊張するべきか。敵の持っている武器には目を見張るから、第三者に露見する前に倒して武器を奪い取ろう。
二人は起こさなくても良いな。俺一人で十分に相手出来る。催涙剤を試してみたかったが、ガスマスクをしているから正攻法でやるしかない。ただあのガスマスクのせいでかなり視界不良になっているようだから、背後を取るのか簡単だろう。
「さて、アマテラスも頼むぞ」
『政宗が死んだ時に、か?』
「物騒だな、おい。骨を拾われるくらい弱ってはないぞ」
『そうだな。貴様は神にも勝る力を秘めているから心配無用だ』
「俺だって神力がなければ強くはない。過大評価をするな」
悲鳴を上げられてはまずいから、一撃で気付かれずに仕留めよう。
木刀を強く握ると背後を取り、的確に後頭部を叩いていった。気を失っていく奴らを一塊にすると武器を掻っ払って、そのまま放置することとした。直に目が覚めて撤退するはずだ。
それにしても、この武器は良いな。確かこの銃はソビエト連邦が生み出したAK47だって仁和が言っていた。特徴も一致するし、AK47で八割方間違いはないだろう。
AK47は構造がシンプルで弾詰まりも起こりにくいからメンテナンスもあまりやる必要がない。命中率が高くはないのが玉に瑕ではあるが、狙撃をするつもりはないから関係ない。
弾倉、つまりは替えの弾も何個かある。数を撃てばいつかは当たると言うから、そもそも命中率など無視しても良い。
「こりゃ珍しい武器がたくさんある。イングラムM10もあるな。イングラムM10は高い火力と高い連射速度を兼ね備えた、小型で小回りも利く銃だ」
というかAK47もイングラムM10も構造がシンプルで複製しやすく安価のため、テロリストがよく使うと聞いてはいたが間違ってはいなかったようだ。
イングラムM10は連射スピードが速く弾をすぐに使い切ってしまう。ただそれを想定して弾もたくさん用意してあるから、連射可能ではある。
「ふむ、興味のない銃の話しも仁和から聞いておいて損はなかった。意外と役立つものだな」
これでAK47もイングラムM10がともに三丁入手することが出来た。それぞれ一丁ずつを二人にも持たせておこう。反動があるから素人にはブレるだろうが、牽制には有効だしな。
「おや」柳生師範は何度も瞬きをした。「その武器はどうしたんだい?」
「ちょっとアテがありまして、ゲットしてきました」
「また随分とゴツい見た目の銃だが......」
「AK47とイングラムM10です。護身用に持っていてください」
「ああ、持っていることとしよう。では急ぎ、この旅館を発ってしまおうか」
「ええ、それが良いでしょう。ここも危険なので」
何となく悟ったであろう柳生師範は武器を装備して防具を装着し、愛華の体を揺すって起こした。俺はその間ずっと八方を警戒し、敵襲を防ぐために神経を尖らせた。
「不審な動きをする奴は他にいるか?」
『我の索敵に引っ掛かるような不審人物は確認出来ていない。おっ、幼女を尾行する変態中年ジジイならば近くにいるぞ』
「バナナの皮でも使って変態ジジイの方を転ばせておいてくれ」
『バナナの皮か? 階段のところにでも設置しておこうか?』
「階段はやめろ。死ぬだろ」
やはりどうにもアマテラスの考えていること、思考などは人間の俺とは多少異なる。変態ジジイだとしても、人に迷惑をかけなければ生きる価値はある。まあ幼女の趣味はどうかと思うが......ベビーシッターとか保育士とかの職業ではないことを願おう。
「運転は柳生師範がし、愛華は身を潜めてください。俺はいつも通り後方を警戒しているので」
「「わかった!」」
逃げ切るまでもう少しだ。戦国時代に戻すまでに時間が掛かるなんて、アマテラスも万能というわけではないのが面倒だ。
『聞こえているが?』
「おっと、そうだった」
舗装されていない道を車で進み、等間隔で小刻みに揺れた。その揺れがあまりにも激しかったため、少々酔ってしまった。
車酔いとは不覚だった。この状態では銃もうまく扱えない。何とかならんのか、全知全能の神?
『全知全能の神とは我のことか? 言っておくが、我はゼウスほど万能でもない。太陽神ではあるが、夜を統べているのは我ではなくツクヨミだ。それすなわち、全知全能ではないであろう?』
「ふむ、お前を創った奴も理不尽なものだな」
『仕方あるまい。政宗だって好き好んで名坂横久として生まれたわけではないだろ?』
「まあな。ただ、今は好き好んで伊達政宗をやってるが」
『それもそうであったか』
「車酔いによって視界はぐちゃぐちゃだが、アマテラスは俺の銃の狙いを定めることは出来るか?」
『出来ればとっくにやっている』
「そうか」
ならば無駄な弾を多く使うことになるが、標的を捕捉する前にイングラムM10を連射しよう。元々そういうことに特化した銃だが、弾の数が多いとは言っても足りるかどうか。やるしかないが、ギリギリだな。




