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伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その弐玖

 小十郎達がオナモミなどを数百個ほど集め終えた、という報告があった。

 仁和は報告を聞くと、糸を取り出した。「ここに長い糸があります。この糸の片方をオナモミにがっちりと結び、もう片方を......とある地点にある木にでも結びましょう。オナモミを誰かの衣服に付けて、その''誰か''が木から遠ざかります。しかし、糸はその''誰か''の居場所を糸は教えてくれるのです」

「そ、それだけか?」

 俺の質問に、仁和は一度だけ首を縦に振った。

「つまり、それが仁和の作戦というのか!? 簡単過ぎて、俺が最初に捨てた答えだ」

「そうかもしれません。非常に簡単であるアナログかつ原始的な方法です。ですが、これが今は最善ですよ」

「確かにそうだな。ただ......」

「と、まあ、私の用事は終わりました。帰らせていただきます」

「ああ」

 仁和は糸を残して廊下へと向かっていった。

 まさかこんな原始的な方法を仁和が提案するとは思いも寄らなかった。ただ、今はそれしか方法がない。実行するしかないか。

「そこの者よ」オナモミを集め終えた、という報告をした家臣を指差した。「小十郎を呼んでまいれ」

「わかりました!」

 廊下に出たそいつは、駆け足となって小十郎を呼びに行っていることが足音からわかった。

 それから少し後に、小十郎は息を切らせながらやって来た。

「急に呼ぶなよ、名坂」

「すまんな。オナモミ回収には感謝するよ。さて。この後は神辺と成実に戦を任せたい」

「は?」

「成実とお前が軍隊を指揮して戦を勝利してくれ」

「僕が指揮を!?」

「頼んだよ」

「ちょっ! その戦、いつだよ」

「明日か明後日(あさって)か。いずれにせよ、俺は戦には行かないから、頼むぞ」

「仕方ない。明日か明後日の戦、任された」

「頼む。神辺は戦が苦手だから、これを機に戦に()れてくれ」

「どんなことがあっても、僕が戦に慣れることはないと思うけど」

「ま、頑張れ」

「おう」

 小十郎はため息をもらした。俺は特製の日本刀を小十郎に渡して、健闘(けんとう)(いの)った。


 翌日、定綱の隊が進行してきているという報告がきた。その数、ざっと十万人とのこと。俺は小十郎と成実に、十五万人の隊の指揮権をたくした。

 成実は平伏した。「必ず勝利をお届けいたします」

「小十郎は戦に不向きだ。お前が守ってやってくれ。この戦は成実と小十郎のスキル(能力)アップ(向上)になる」

「はい。心得ております!」

「うむ」

 おお、何か今、俺が当主っぽいことしてるぜ! 当主が板に付いてきた感じだ。このままいけば、誰からも(した)われる良き(あるじ)となれる! 俺は両手ともに拳を握って、両腕を九十度起こして小さくガッツポーズをした。

 小十郎も片足の膝を地面につけた。「行ってきます!」

「安心しろ、小十郎。仁和も着いていくから、大敗する危険性は低い」

「はい!」

 小十郎から視線を離した俺は、拳を握った状態で片手を上げた。「全員、死ぬなよ! 戦には負けても生きて帰ってこい! 生きて帰ってきた者には報酬(ほうしゅう)をくれてやる! 死ぬな!」

「「はいっ!!」」

 報酬に心が動かされたのか。団結(だんけつ)力が高まった気がする。

 小十郎と成実が馬に乗ると、戦に出掛ける全員が身(みがま)えた。成実が刀を(かか)げると、おぉー、という掛け声とともに出発をしていった。そしてすぐに彼らの姿は見えなくなり、馬の足跡だけが地面にくっきりと残っていた。

 景頼は心配そうな顔をしていた。「本当にあの二人だけで戦に勝てますでしょうか?」

「成実は強い。俺にも流れている血が成実にも流れているんだから、弱いわけないだろ? それに、小十郎は頭が良い。小十郎の作戦が成実の役に立つはずだ。しかも、仁和だって行ってるんだぜ? 負けると思うか?」

「思いませんが、嫌な予感がします」

「嫌な予感? 景頼の(かん)(にぶ)ってるんじゃないか? 敵方は十万の兵、対して成実・小十郎、仁和の指揮する軍の兵力は十五万人! 五万人の違いがあるんだ。負けるわけがない」

「ですが......」

「心配すんな。きっとすぐに良い報告が入ると思うから、それまで待ってろ。景頼の言うとおり、あいつらが劣勢だという報告があった場合は、お前の言うことにしたがって新たな兵力を送り込むよ」

「それなら、まあ良いでしょう」

「多分、劣勢になることはない。劣勢になる前にあいつらなら勝っている」

「わかりました。今は若様の言うとおりに黙っておきます」

「ああ、わかった」

 この時に俺の景頼の言うことを信じておけば良かったと、今になって後悔している。ただ、その時は自分が正しいとしか思っていなかった。負けるなんて思っていなかったことを、今でもはっきりと覚えている。

 景頼の肩をポンポンと二回だけ軽く叩いて、そのまま城へと入っていった。

 それから数時間。景頼はものすごい剣幕(けんまく)で俺の元へ来た。勝利の報告かと思っていたから、横に寝そべりながら耳を(かたむ)けた。

「若様!」

「ん? どうした?」

「我々の軍が劣勢という報告が入りました!」

「なっ!」俺は体を起こした。「マジか! 嘘だろ!?」

「本当です! 新たな兵力を送り込みましょう」

 俺は立ち上がって、戦の準備をした。「行こう!」

 なぜ負けたんだ。五万人という兵力差で負けることはあり得るのか!?

 第五章の内容を考えていて、戦国時代の犬と猫を題材にしようかな、と思いました。

 第五章全部が犬猫の話しにはならないと思いますが、犬猫は登場するはずです。多分、犬猫に推理要素をプラスする感じになるでしょう。

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