伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その弐陸
「これでわかったと思う。アーティネスは最低な奴なんだ」
レイカーは顔を下に向けながら、そう言った。
前世で神話として美化された神様達が異常だっただけで、実際の神様なんてこんなもんだ。だから、大したショックでもない。
「レイカーを信じよう」
「ありがとう」
俺はレイカーと再度握手をしてから、会議を再開させた。まずは年明けに、反伊達政宗派の近隣の大名と戦ったりして暴れ回ることまではまとまった。ただ、どうやって輝宗を助けるかが問題となる。
ホームズの世界は輝宗の危険が伴うし、いったいどんな作戦が良いのだろうか。
俺は会議を切り上げると、仁和がクリスマスパーティー用の料理を作っている調理場まで戻った。
仁和は拍手をした。「まさか政宗殿が自発的に料理しに戻ってくるとは。賞賛に値します」
「そんなんじゃねーよ。あ、そうそう。クリスマスパーティーの参加者は登場人物全員にしろよ!」
「登場人物? あなたは何を言っているんですか?」
「んー、今までに会ってきた奴らを呼べってことだ。わかったか?」
「ええ、わかりました。家臣全員と真壁河親殿、でよろしいですね?」
「家臣全員の中に虎哉宗乙も入っているか?」
「はい」
「ならそれで大丈夫だ!」
「では料理を始めましょう」
「えぇっ!!」
それから日が沈むまで料理は続いた。地獄だった。俺は火で熱せられた鉄板に指を突っ込んで火傷し、包丁で間違えて指を切り、挙げ句料理が下手で腹をくだした。そのせいで、試食を食べた家臣は、ほぼ例外なくトイレに向かっていった。これは確かに悪いことをしたと反省している。
そんな嵐が過ぎ去り、そうして十二月。クリスマスパーティーを催すことになった。
虎哉は俺と仁和で作った伊達巻き(に近い食べ物)を食して、体が後方に仰け反った。「これは素晴らしい食べ物ですね! 平玉子焼きとは似ていますが、味は平玉子焼き以上の絶品! これは若様考案の食べ物なのですか?」
「それは伊達巻きと名付けました。師匠の口に合って良かったです。伊達巻きは軍配士である仁和凪という家臣が考案し、私と一緒に作り上げました」
「ほお、仁和寺と同じ名前ですね。それは縁起が良い」
「頭のキレた軍配士です。ここに呼びましょうか?」
「死ぬ前に若様の軍配士をお目に掛かりたい故、わしの前に連れてきてください」
「わかりました」
俺は仁和がいる場所まで行って、仁和を探した。すると仁和は調理場で調理の指導をしていた。
「おい、仁和」
「今はクリスマスパーティー中では? 私に何かご用で?」
「師匠が仁和と会いたいと言ったんだ。伊達巻きをいたく気に入ったようで、考案者とお会いしたいようだ」
「師匠とは、虎哉殿のことですか?」
「ああ、その通りだ」
「そうですか。気に入ったのですね」
「そうらしい。んじゃ、着いてきてくれ」
「はい」
仁和は俺を追うようにして着いてきた。俺は虎哉がいるところまで行くと、仁和を虎哉の前に立たせた。
「こちらが軍配士の仁和凪です」
「どうも、仁和です」
「わしは虎哉宗乙。幼き若様の教育係を務めておりました者です」
虎哉は仁和と両手で握手をした。
「虎哉殿は伊達巻きを気に入ったと政宗殿から伺いましたが、美味しかったですか?」
「それはもちろん! あんな美味は久しく食べていませんでした。平玉子焼きのあのアレンジはよく考えつきましたね!」
「ええ。政宗殿にも手伝ってもらって少しずつ改良をし、今虎哉殿が食べているような伊達巻きに仕上がりました。美味しかったのなら光栄です」
「次に新たな料理が完成しましたら、是非このわしを呼んでくださいね」
「はい。次は試食に呼ばせていただきます」
俺は日本酒をたしなみながら、二人の会話を聞いていた。仁和はいつも無愛想だが、こういう外交には意外と向いているんだな。愛想が良くなっている。いずれ外交を仁和にやらせてみるか。
「若様!」息を切らせながら、小十郎が走り寄ってきた。「泥酔者がご乱心を」
「ご乱心......酒に酔って家臣が暴れているってことか!?」
「さようです」
アルコール度数の高い日本酒を家臣に振る舞ったのが失敗だったか。
小十郎が案内した場所では、家臣二人が顔を真っ赤に染めながら服をつかみ合っていた。
「下がれ、お前ら!」
俺が一声掛けるが、なかなか喧嘩をやめない。ついに泥酔者の片方が発狂し始めた。
その発狂した声を聞いたのか、駆けつけた輝宗が声を張り上げた。「貴様ら何をやっておる! やめんかっ!」
輝宗がそう言うと、両家臣は離れてひざまづいた。さすが輝宗だ。隠居をしてもなお、俺より家臣から崇められているとはな。
「いいか? 今は政宗が当主だ。たとえ俺が言ったことに反していても、政宗の言ったことを優先するんだ!」
「「わ、わかりました!」」
「お前らは一ヶ月は酒を飲むな! 禁酒をしろよ!」
驚くほど輝宗に素直な家臣どもだ。本っ当に政宗派の家臣は少ないな。輝宗の統率力は仁和の統率力より見習いたいものだ。
「政宗。後処理は任せるぞ」
「ありがとうございます、父上」
「うむ。困ったことがあったら、いつでも頼るのだぞ」
「はい!」
輝宗は両手を背に回して、腰を押さえながら廊下へと歩みを進めていた。
昨日は投稿出来ず、すみませんでした。諸事情があって投稿出来なかっただけで、エタってはいないので安心してください(安心する人がいるかどうかはわかりません)!




