1-2 初めての仲間
あれから、一ヵ月が経った。
森の中で短い髪を乱しながら一人の子供が走っていく。
「よし!
トビーラビットを捕まえた!」
ユーリは、うさぎのような魔獣・トビーラビットの耳を掴みながら持ち上げた。
こちらの世界に来て、一週間ぐらいは大人しく魚や果物などをとって食事にしていた。
が、やはり魚ばかりだと飽きた為、魔獣も食べるようになった。
一応、初めての魔獣に対しては「鑑定」という魔法で毒がないか。など、慎重に獲物を見極めていた。
解体作業も最初の頃は危なっかしいやら、皮を剥ぐ際にボロボロにしたりとしていたが、二週間も経てばモノの見事に切り分けていく。
いつもと同じ木の下に行くと、木の枝から一本のロープが吊り下がっていた。
いくら小物の魔獣と言えど魔獣には変わらない。
だから、血などの匂いで別の魔獣が来ないとも限らない。
その辺を考慮した結果、川の水で流れるように場所を考えた。
ここ十日ほど前からこの血抜きをする木の傍にスライムが一匹住み着いた。
初めて会ったときは驚いて攻撃をしようかとも思ったが、まだ小さく怯えていたので私のエモノに何かしたらその時に処分しようとか思っていた。
だが、スライムはエモノには何もせず血を抜く時に落ちる血を吸収するだけで、特に悪さをしないので、ユーリはそのスライムを次第と可愛がるようになった。
「こんにちは。スライム君。
今日はトビーラビットを捕まえて来たよ。」
と、木の後ろに隠れていたスライムに声をかけてから処理のし始める。
十数分後。
ユーリはトビーラビットを捌き、内臓や血はスライムが回収した。
・・・スライムを手懐けているようにみえるが・・・
従魔契約など、所謂テイムはしていない。
ユーリ曰く、「これは共存!」らしい。
スライムが回収した内臓や血はそのままにしていては他の魔獣が集まってくるし、川に流したとしても回りまわって魔獣が来るかもしれない。
というか、川の水を汚さなくて済むかもとか思っていたので本人曰く共存関係が成立していると思っている。
!!
ユーリは森の奥から何か異変を感じた。
先ほど捌いたトビーラビットの皮や肉をカバンに入れて、森の奥の方の気配を確かめるように見た。
何か強い気配は特に感じなかったので、ユーリは急いで異変を感じた辺りまで走った。
この辺で一番大きな木の根元で小さな血だまりを見つけた。
何やら小さな魔獣が倒れているのを発見した。
「大丈夫??
怪我は・・・してるけど、まだ生きてる?」
ユーリは血だまりの中に手を突っ込み、優しく抱き上げる。
まだ暖かく、小さくはあるが息をしていた。
「まだ、生きてる!
ヒール!!」
ユーリの手の中にいる魔獣が光り出し、少しずつ光が消えていく。
すると、先ほどは虫の息ほどの呼吸が少し楽になりやや大きくなっていくのを感じた。
「よし!
ここでは大したことが出来ない。
もう一回ヒールをしたら、小屋に連れて帰ろう!!」
その後、ユーリは小屋へ持ち帰った怪我を負った魔獣は鑑定した結果、シアウルフの子供だと判明した。
怪我をした場所を包帯で巻いてやり、魔獣の皮で包んでソファに寝かしてあげている。
ユーリはいつも以上にスープを長時間火にかけ、肉などの具材が柔らかくなるまで煮込んだ。
念のため、調味料は入れずに・・・。
自分の夕食を早々に済ませ、ユーリは優しくシアウルフの子供を抱きしめ、ゆっくりゆっくりと良く煮込んだスープを飲ませた。
そして、自分のベッドの中に入れ、身体を冷やさないようにして一晩を明かした。
本人曰く寝るつもりはなかったが、なんせ11歳だ。
夜更け前には寝息と変わっていた。
朝、何やら頬を舐められる感覚で目が覚める。
寝ぼけながら、体を起こすと下半身に何やら暖かく重みを感じる。
「ワン!」
「・・・?」
この世界に来てからずっと一人暮らしだったユーリにとって、寝起きに他の生き物がいる感覚など久し振りで分からなかった。
「あ・・・。
昨日の助けた魔獣が居たっけ・・・。」
「ワン!!」
小型犬ぐらいの大きさの犬・・・いや、シアウルフが尻尾を嬉しそうに振りながら目を輝かせていた。
私は恐る恐る手を伸ばし、シアウルフを持ち上げた。
「やった!
元気になった。
もうどこも痛くない??」
「ワン!」
昨晩のスープを温め直し、皿に入れて床に置いた。
シアウルフの子供は涎を垂らしながらも大きく尻尾を振ってこちらを見つめた。
「いいよ。
キミのごはんだよ。
食べていいよ。」
と、微笑みながら言ったら、ようやくシアウルフの子供はガツガツと食べ始めた。
その様子を安心したように息を吐き、ユーリは自分も朝食を食べるため椅子に座った。
二人とも(一人と一匹)が食べ終わってユーリはお茶を飲みながら、これからの事を考えながら呟いた。
「・・・これからどうしよう。
助けちゃったし、まだ子供だし・・・自分で狩りとか出来ないだろうしな・・・。
でも、私従魔契約出来るかどうかなんてわかんないしな・・・。」
そう従魔契約は適性の問題である。
主に、家系によるモノが強い。
その上、従魔契約するには大掛かりな儀式や多めの魔力が必要になる。
ほいほいと出来るものではない。
稀に出来ることはある・・・。
が、それは人と魔獣の相思相愛・・・恋愛の方ではないが、良くある理由は魔獣側が人を主と認めたり、懐いたりして共に生きると決めた場合がある。
まぁ、例外的に虐待とかしたら契約が解除されたりするみたいだが・・・。
「う~~ん。」
ユーリは顎に手を当て難しく考えている所に、シアウルフの子供が近づいてきて軽く吠えた。
「ワン!」
!!
ユーリは考えるのを一旦やめて、シアウルフの子供の方を見た。
シアウルフの子供はおすわりをしてユーリを見上げていた。
「??
どうした?
おかわりでもするか?」
ユーリは可愛らしいお客さんに声をかけながら頭を撫でようと頭に触れた。
一瞬、光が光ったと思ったらユーリの手の甲に赤い紋様が浮かび上がった。
そして、しばらくする赤い紋様は一ヶ所を残して消えていった。
ポカーンとして驚いていたユーリだが、以前こちらの世界に来た時に神・セルトさまが用意してくれた本を思い出し、頭の中で内容を一つ一つ思い出した。
従魔契約・テイム
魔獣から従魔になりたい場合も契約が成立する。
従魔契約の証として人族の手と魔獣の額に同じ紋様が浮かぶ。
ユーリは自分の手の紋様とシアウルフの子供の頭にある紋様を見比べた。
同じ紋様を見つけた・・・。
「・・・ホント??」
「ワン!」
という事で、ユーリは昨日助けたシアウルフの子供を従魔にして、「リュウ」と名付けた。
シアウルフの子供も「リュウ」という名前に満足したのように短く吠え、ユーリの足元に顔をすり合わせてきた。
そして、翌日ユーリは「リュウ」を連れて森で狩りをし、いつも通り狩りを終え、血抜きをしに来たら、いつも居るスライムが・・・やたら体当たりをしてきた。
痛みはないのでじゃれ合い程度のモノだが・・・今までそういった時はなかった。
ユーリは宥めようとスライムを両手で掴んだら、「リュウ」と同じように光って消えた。
スライムの額ではなく、口の下辺りにユーリの手の甲と同じ紋様があった。