3-3 盗賊と護衛
―サラレイン領主の屋敷―
「フィル、ユーリちゃんから手紙が届いたぞ。」
「そうか。早速、皆を集めて読むとしよう。」
執務室でフィリウスがレオンから手紙を受け取り、近くに居た使用人にディオンたちを呼ぶように言った。
すると、ディオンやセシル、サムたちが急ぎ足で部屋に入って来た。
「皆が揃ったし、そろそろ手紙を開けて読もうか。」
「ねぇ、早く早く。」
セシルは、フィリウスを焦らせ早く読むように言ったのだ。
「では、-サラレイン家の皆さん、お元気ですか?
私は・・・・・・」
フィリウスは声に出し、ユーリからの手紙を読み始めた。
皆、それぞれ相槌をうったり、ディオンとレオンは地図を持ち出し、ユーリの訪れた町に印を付けたりしていた。
二人が見ている地図には既にいくつか印が数か所に付けられ、ユーリからの手紙から彼女が進んだと思われる道が目に見えて分かるようになっていた。
「ほうほう。ユーリちゃんはもうそろそろサラレイン領を抜けそうじゃな。」
「そうだな。きっとこの街道をこう通って、こっち行くんじゃないッスか?」
二人は地図を見ながらユーリが行きそうな方法を話していた。
「あ、そうだ。サム。
シンはもうユーリちゃんに会えたかしら?」
「それは・・・わかりませんね・・・。
二人とも手紙にはそれらしい事を書いてありませんからね・・・。
ったく、シンも定期的に手紙を書いて送っては来るのですが、『今、どこの町に着いた。』としか書かれていないんですよ・・・。
一応、ユーリさんと同じ町、もしくはその周辺から届くのですけど・・・。」
「まぁ、サム。アイツらしいじゃねぇか。」
レオンはサムの背中を叩きながら笑っていた。
ユーリは新しい町に向けて、あと一日ぐらいの所まで来ていたのだった。
「きゃ~~。」
丘の向こう側から女性の声と、騒々しい物音と金属がぶつかる音が聞こえて来た。
「リュウ。警戒して。」
ユーリはそう話すと、ショートソードを手にかけ、声の方向に走っていた。
リュウもユーリの後ろを走り、普段とは違う表情で背中の毛を少しだけ逆立っているようだ。
ユーリたちは丘を越え、目にしたのは盗賊に荷馬車が襲われている所だったのだ。
荷馬車が一つ、それを守るように冒険者のような恰好をした人が四人。その周りに盗賊が五・六人で襲っているようだ。
冒険者と盗賊は荷馬車を囲むように戦い、荷馬車の前方で一人の冒険者と盗賊二人が対峙しているように見えた。
そして、後方から体の小さい男が一人、隠れるように荷馬車に乗り込んでいる所だった。
ユーリは急いで荷馬車の後ろに向かい、中に入りそうだった男の脇腹を思いっきり蹴り飛ばし、口笛を吹いたのだ。
口笛を聞いたリュウは、先ほどユーリが蹴った男の前に立ち牙を向き出し威嚇していた。
ユーリはそのまま荷馬車の中を覗いて、「もう大丈夫です。」と短く言うと、リュウが威嚇している男の顔にひざをぶつけ、そのまま倒れさせた。
ユーリは男が気絶しているのを確認すると、「リュウ、あっち。」と左側を指差し、命令する。
リュウが荷馬車の左側に走るとユーリは右側にいる二人の男に近付き、服装がキレイじゃない方の男の剣を叩き落としたのだ。
剣を落としてない方の男が「すまない。」とユーリに声をかけた後、もう一人の男の腕を拘束し始めた。
ユーリは拘束している男と目を合わせると、前方の三人の元へ向かったのだ。
三人のうち二人は兜とローブで顔が見えず、最後の一人は青銅色の胸当てを付けているが右頬に大きな傷があり無精ひげを生やした男。
ユーリは迷うことなく鎧を着た男の後頭部にその辺にあった少し大きめの石を投げ付けて気絶させた。
「「「リーダー。」」」
「よし。今だ!」
「え・・・? 間違えた?」
さっき助けた男たちが声を揃え、ユーリの近くにいた男二人はユーリを無視して荷馬車に走り出した。
ユーリはその場で片手を上げて、「アイス・ボール」と言うと、拳程度の大きさの氷が現れ、背の高い男の足元に投げると男の足が凍った。
もう一人は氷を投げた後、すぐに追いかけて後ろから背中に飛びけりをした。
男の上に着地したユーリは、足が凍った男が剣の柄で氷を叩き割っていた腕を思いっきり蹴った。
『ボキッ』
足の氷を取ろうとしていた男は少女の蹴りにより、大きな音と共に関節がない所が曲がった。
その衝撃で、男の体は横に吹っ飛び、足の氷も一緒に砕けたのだった。
男が右腕を抑え、声にならない叫び声で地面をのたうち回っている。
そこに、先ほどユーリたちによって痛めつけられたが、自力で立ち上がれる盗賊たちが集まってきた。
「「お頭!!!」」
一人の男が頭にしていた布をほどき、腕に巻き付けた。
手当された男は、周りの状況を確認する。
「て……撤退だ。そこのお前。今度会ったら覚えとけ。」
布を巻いた男がそう言うと、他の盗賊たちは仲間を脇に抱えたりして全員回収すると急いで茂みの奥へと向かって逃げ去った。
リュウはその後を追って、森に入ろうとする。
「リュウ。駄目。
とりあえず、皆の安全が先。深追いは危ないからしないで。」
リュウにユーリが言い聞かせると、リュウは少し寂しそうに尻尾を垂らしてユーリの元へゆっくりと歩き出す。
ユーリは間違って、石を当てた男の顔を覗くように様子を見た。
完全に意識を無くした男の周りに先ほど、ユーリとリュウが手助けした護衛の人たちが集まって来た。
「……。」
しばらく沈黙が続いたあと、ユーリは頭を下げ、「ごめんなさい。」と謝罪したのだった。
それを見た護衛の三人と少し太った男がそれぞれ困った顔で互いを見て、自分の前で片手を振る男、首を振る男たちのうち、一人の男が困った顔をしながら、声を出した。
「えっと……危ない所を助けてくれてありがとう。
俺たちは商人の荷馬車の護衛として雇われた冒険者の『ブロンドの盾』というパーティを組んで、リーダーはそこで寝てる。
おれはカイって言うんだが、とりあえずリーダーを荷馬車に運んで良いか?」
カイはリーダーを仲間に任せ、ユーリと少し太った商人で話を始めた。
「で、お嬢ちゃんは何者なんだい?
可愛い割に、足癖が悪いようだが……。」
「……あはは……。
殴るより蹴った方がパワー出るから……。」
「そこじゃねぇ。
大人相手に良く立ち回れたもんだ……。怖くなかったのか?」
「……? 今まで年上の人とばかり戦闘訓練してたから?
それに、あんな盗賊よりレオンさんの方が強かったし?」
「なんで、首を傾げながら?
レオンって誰だよ? 嬢ちゃんの師匠か何か?
……レオン……まさか、あのBランク冒険者の??獣人族だったか?」
「レオンさん? 黒い猫系の獣人さんだよ?
元Bランクって言ってたよ?」
ユーリはカイを言うと、カイは商人を少し離れた場所に連れて行き、何かコソコソと話していた。
ユーリはどうしたらいいのか迷っていたが、すぐにカイがユーリの元へ来た。
「俺たち、この商人の護衛で近くの町に戻る所だったんだが、お嬢ちゃん。
もし良かったら、このまま俺たちと一緒に町へ付いて来てくれないかな?」
「え? 私たちも町に向かっている途中だったから……。」
「私たち? 嬢ちゃんのほかに誰か一緒なのか?」
「嬢ちゃんじゃない。私はユーリ。こっちはシアウルフのリュウです。」
「そうか。ユーリにリュウか。
ほら、盗賊たちは逃げちまったし、さっさと出発するぞ?」
ユーリとリュウは荷馬車に乗せて貰い、カイは荷馬車の前に乗り馬を操った。
荷馬車の中には、ユーリより年下の女の子が乗っていたのだ。
その女の子は商人の娘で、護衛のリーダーの手当てをしていたのだ。




