3-1 サムとシン
―ユーリの旅立つ準備の為、道具屋と武器屋を回った後-
シンはディオンの計らいで先輩であるサムと同室になった部屋に入った。
サムは入り口の近くで腕を組み、シンが帰ってくるのを待っていたのだ。
「・・・ただいま戻りました。」
「おかえりなさい。
シン。どこに行っていたのですか?」
サムは静かに怒りつつ、普段と変わらない声でシンに聞いて来たのだ。
「町で買い物をしてきました。」
「買い物ですか・・・。
なぜ、一言も言わず行ったのですか?
何度も言いますけど、いい加減に覚えなさい。
勝手にどこかへ行くのは良いのですが、どこかに行ってしまっては同伴していた私たちが心配するでしょ?
どこで何をどうするのかまでは言いません。
せめて、離れる時ぐらいは一言声をかけてなさい。」
「・・・サム先輩は、私を心配して下さったのですか?」
「当たり前です。
貴方は私の後輩・・・弟のように思っていますからね。
ったく。ユーリさんもシンもレオンさままで・・・。
私の気も知らないで勝手にあっちこっち・・・。
で、シン。
なぜ、今日はちょこちょこと私たちのそばを離れたのですか?」
「・・・すいません。」
「謝ってほしいのではありません。
シン。貴方は意味もなく勝手にどこかに行くような子ではないのでしょう。
なぜ、私たちから離れて何をしていたのか話してください。」
「はい。
以前、ユーリさんが旅に立つと言われた後、セシルさまに私も旅に出る許可を取りました。」
「旅?許可?
なぜ、それをもっと早く言わなかったのです!」
「一緒に居られたフィリウスさまが出来るだけ誰にも知られない方が良いとおっしゃっていたので、誰にも言わなかったのです。
私一人、いなくなっても誰も困らないでしょう。」
「困る、困らないの問題ではないでしょう。」
サムは言葉にならない言葉を発し、小さくため息をついた。
「フィリウスさまも何か考えがあっての事でしょう・・・。
シン。貴方の話し方から察すると、ユーリさんと一緒に旅に出ると言う事ですか?」
サムがそう言うとシンは小さく頷いた。
「ユーリさんはお一人で旅に出ると思っていますし、貴方が同行するのを許すとは思いません。
それでも、貴方はユーリさんについて行かれるのですか?」
「はい。」
今度は声に出し、力強く縦に首を振るシン。
「はぁ・・・。
近頃の貴方を見ていたら、そんな気がしていました・・・。」
「??」
「きっと、ディオンさまと父上、母上も気付いているとは思いますが、レオンさまは気付いていないのでしょうね。
シン。もし、レオンさまに聞かれたら自分でしっかり言うのですよ?
で?
今日は何を買ってきたのですか?
私も一緒に確認します。」
「良いのですか?
私も屋敷を出ても・・・。」
「貴方のことです。
私が止めてもやめないでしょう。
ユーリさんもユーリさんですが、シンもシンです。
私の心配も知らないで・・・。」
「でしたら、サム先輩もご一緒にどうですか?」
「私は貴方たちとは違います。
私はこの屋敷で父上の後を継ぎ、フィリウスさま、そしてクロードさまの為に働く義務があります。
もし、父上が旅立つことを許しても、私はこのサラレイン家と共に生きると決めているのです。
なので、シン。
ユーリさんの事は貴方に託しますよ。」
シンはレオンにフィリウス夫婦に許可を得た事、サムに言って準備を手伝ってくれた事を話した。
「フィルとセシルさま、サムも気付いていたのか・・・。
それに、あのサムが準備を手伝うとはな・・・。」
ダンテはレオンとシンが話しているのを横で聞きながら新しいお茶を用意していた。
「ったく、なんで気付くのかね・・・。
俺はディオンさまに言われるまで気付かなかったぞ・・・。
いつかは旅立つとは思ったけどな・・・。」
「あはは・・・。
若いとはそういう事なのではないのですか?レオンさま。
シンさんもとりあえず、温かいお茶でも飲みましょう。
お茶の一杯や二杯、飲んだところで大して変わらないでしょうに・・・。」
「そうだな。
シン、ダンテの旦那の言う通りだぜ。
ユーリ嬢ちゃんの事だ。
お前がどんなに急いでも変わらんさ。
少しおっさんの話でも付き合え。」
その後、レオンが背負っていたカバンから多くの余った乾燥野菜など食料品を中心に色んなモノをシンに渡した。
それらの色々な使い方や調理法などレオンが冒険していた時に培った知識も同様にシンに託したのだった。
シンと別れたレオンとダンテは来た時よりかなり軽い荷物を運び、屋敷に戻ったのだ。
レオンはディオンを初めとするフィリウスやサムにシンが旅に出たことを話した。
ダンテが自ら採って来た『ディア草』より十本ほど多い事に気付いてた。
「ユーリさん・・・。
こんなにも持っていたとは・・・
旅に持って行っても良かったのですけどね・・・。
まぁ、返すアテがある訳もないですし・・・。
ユーリさんには成果を見せて驚かせましょうか・・・。」
ダンテは一人、中庭の片隅で空を見上げながら呟いていたのだった。
一方、ユーリは森を北西に抜けて、森を出る前に夕暮れが近付いて来ていた。
今日は進むことをやめて、今いる場所辺りで野宿の準備を始めたのだ。
「リュウ~。とりあえず、お肉を取りに行こうか。」
「ワン。」
ユーリとリュウは森の奥から戻ってくるとラビット系を二匹とコック系の魔獣を一匹、仕留めて戻って来た。
ユーリが手早く下処理をする前に、リュウに小枝などを集めてくるようにお願いをする。
リュウが枝を数回に分けて集めている間に、ユーリは魔獣を捌き、肉を焼いたりスープを作ったり用意したのだ。
ユーリとリュウにとっては森で暮らしていた頃と変わりなく一晩を過ごす。
以前と違って小屋でなく野宿なので、少し離れた場所に魔獣除けのお香を数ヶ所設置し、その間に鳴子を仕掛けている。
ユーリがレオンから教えて貰った方法なのだ。
おまけにリュウは、魔物なので気配には敏感で用心棒には持ってこい。と言われたのだ。
何気に充実したサバイバル生活を送っているユーリたちから十キロほど離れた場所にいるシンは一人、携帯食料と簡単なスープで体とお腹を温め、満たしていたのだった。
・・・なんだか切ないな・・・
頑張れ!シン!
負けるな!シン!




