2-18 本当の出発
次の日の朝食は昨日の夕飯の残りと、サムが用意した果物を食べ、簡単に済ませたのだ。
「さて、そろそろ森の中を行くか。
ユーリ嬢ちゃん。『ディア草』を見つけた場所は分かるか?」
「うん。大丈夫。
この森には良く薬草を採りに来てたし。」
ユーリは三人を案内しつつ、目的地へ向かって歩き出した。
「ユーリ嬢ちゃん。ちょっと待て。」
「へ?」
ユーリが振り返るとダンテは息が切れ、汗だくでフラフラとした足取りで後ろの方にいた。
「私、早かった?
(あれ?今日は大人しかいないから、少し早めに歩いてたけど・・・。
昨日の晩の話の事、考えてたし・・・。
ダンテさんの事、忘れてたな・・・。)」
ユーリが立ち止まり、他の大人が来るのを待った。
シンも額の汗を拭っていた。レオンは顔色一つ変えずにダンテを迎えに行った。
「ユーリ嬢ちゃん。
森の道にいくら慣れてるからって、他のヤツも慣れてると思うなよ・・・。」
「ハハハ・・・ごめんなさい。」
「ったく。もうそろそろ昼時だろ。
ここらでメシにでもするか。」
レオンは土がむき出した場所を見つけ、そこに背負ったカバンを下ろした。
シンはレオンが持っていたカバンから色々出し、昼食の準備を始める。
レオンは枝などを集め小さな火を付け、お湯を用意していく。
ダンテも何かしようとしたが、レオンが「少し休め。」と言われたので近くに座り込んでいた。
「ユーリ嬢ちゃん。
目的地まではあとどのぐらいだ?」
「あぁ・・・。もう少し、三十分ぐらいで着くかな?」
ダンテは明らかにホッとため息をつきながら、レオンが入れたお茶を飲んだ。
「ほれ。ユーリ嬢ちゃん。
考え事しながらでも進んでも良いが、ちゃんと後ろの事も考えて進んでやれ。」
ユーリはレオンの言葉に「うん。」と返事をしながらお茶を受け取った。
「にしても、ダンテのおっさん・・・。
体力なさすぎじゃないのか?」
「・・・。私は元書類書きが仕事なんです・・・。
基本、室内ですし森にも生まれてから一度も来たことがありません。」
「もしかして、子供の頃とか町の外とかにも行った事ないのか?」
「えぇ。まぁ。必要がありませんでしたし、家で本を読んでいる方が好きでしたしね。」
「(こうして見ると二人って正反対だな・・・。
見た目もそうだけど、育ち方も・・・。)
でも、たまには日光に当たるのも良いよ?」
「幼い頃、同じことを両親にも言われましたよ。」
ユーリは体力回復薬を渡したらダンテは一気に飲み干した。
しばらく休んでから、目的の場所へと進んだ。
そこは少し開けた場所だが、大きな木々から木漏れ日が差し込む。
下には多くの草が生え広がっていた。
「この辺が『ディア草』があるよ。」
ユーリはダンテを連れて行き、そのまま地面に座った。
ダンテもユーリと一緒に座り、ユーリが指差す場所を見たのだ。
「おぉ・・・。これが野生の『ディア草』かぁ・・・。」
ダンテは先ほどの疲れを一切見せず、目を輝かせて草を色んな角度から見回した。
「ふむふむ。
ユーリさんが言ってた通り、シロバナも一緒に群生していますね・・・。
シロバナが育つ環境なら『ディア草』が育つのか?
それとも、シロバナと一緒だから『ディア草』が育つのか、気になるところですね。」
ダンテはひとり言のように呟き、気になる事をいくつもメモに書き込んでいった。
もちろん、自分で『ディア草』を周りの土ごと掘り起こし、こぼれないように土を丁寧に布でくるんでいったのだ。
ダンテが『ディア草』を何本か抜き取った後、四人は小屋まで戻ったのだ。
『ディア草』を荷馬車に用意してあった箱に移し、ダンテはそのまま小屋に着く前に力尽きていたのをレオンが荷物を持つように片腕に乗せ、小屋へと連れて行った。
シンがダンテの看病とスープを作っている間に、レオンが昨夜仕掛けた罠を川に見に行くのでユーリも一緒に着いていったのだ。
「で、ユーリ嬢ちゃん。
どうするか、決めたのか?」
「うん。
私、やっぱりこのまま旅に出る。
明日の朝早くに出発しようと思う。」
「そっか・・・。分かった。」
ユーリが木にもたれかかって言うと、レオンはユーリの頭を優しく撫で、少し寂しそうに言った。
しかし、レオンはすぐにいつものように笑って、仕掛けた罠を川から引き揚げたのだ。
ユーリは少しだけ寂しそうに夕食を食べているとダンテが心配で声をかけたが、レオンが「少し疲れているだけ」と言い訳をしてくれたのだった。
早朝、ユーリとリュウは一人と一匹で森を抜け、旅に立ったのだった。
レオンは旅立つユーリたちの背中を静かに見送っていた。
シンとダンテが起き、ダンテはユーリがいない事に気付くと大急ぎで捜索をしようとしていたが、レオンがそれを止めた。
軽めの朝食はユーリがいつの間にか用意しており、三人はそれを食べながらレオンがユーリの事を話したのだった。
「そういう事だ。ダンテの旦那。
お前を利用するようで悪いがこのまま一緒に屋敷に戻ってくれないか。」
「・・・まぁ、彼女のおかげで新たな仕事につけたのですし。
ディオンさまも承知という事なんですね?
なら、私には何もできません。
むしろ、昨日はユーリさんについて行くこともままならなかったのですしね。」
ダンテは肩を軽く上げ、「せめて一言あって欲しかった。」と呟いた。
が、それを黙って聞いていたシンは立ち上がり、出掛ける用意を始めた。
「おい。シン。どこへ行く?
ユーリ嬢ちゃんを連れ戻すのは許さん。」
レオンは今にも小屋から出るシンの襟を掴み止める。
シンはそれでも前に行こうとするので、レオンはシンの頭に拳を下ろしたのだった。




