2-16 ダンテの未来
その後、ユーリはディオンに冒険者ギルドの事を話した。
「ほう。それは面白い事になりそうじゃ。ユーリちゃん。
そのダンテという青年を儂に紹介してくれないか?」
「え?ダンテさんを?」
「そうじゃ。
そのダンテと言う職員は『ディア草』の生育に成功したのじゃろ?」
「うん。そうみたい。
もう少ししたら株分け出来るって言ってたけど?」
「ディア草はまだ国内では栽培されておらん。
王都の温室にもあるが栽培する為でなく、あくまでも研究するためだけじゃ。
もし、サラレイン領内で栽培が成功して一般に出回る事が出来たなら良い商売にもなるし、薬自体の値段も下がって民衆たちにも手が届きやすくなる。」
ディオンはユーリに向かって興奮気味に話しかけた。
ユーリはそんなディオンに圧倒されながら首を縦に振った。
「今度、ダンテさんを紹介します。」
ディオンとのお茶会が終わり、部屋に入るときにレオンは「ダンテの休暇を確認して来る。」と言って、町へと走り出した。
「ディオンさまは視察旅行から帰ってから、やる事が少なくなったようで、寂しそうだと父上が話しておりました。」
先ほどのディオンが興奮したのが珍しく、サムも驚きを隠せずユーリに話してくれた。
夕飯前にはレオンが戻り、ユーリの部屋に来てくれた。
「ユーリ嬢ちゃん。ダンテが明日の昼頃、屋敷に来るってさ。」
「明日の昼?
明日、ダンテさんがお休みだったの?
だったら、今日会った時に話してくれても良かったのに・・・」
ユーリが言ったら、レオンは複雑な表情をしたのだ。
「いや・・・。
明日も仕事だそうだぞ?
ただ、先代領主のディオンさまからのお誘いだ。
ギルドマスターも二つ返事で早く行けってさ。」
「あ・・・あ~。
ディオンおじいちゃんって偉い人だったね・・・。
お茶目だし、おじいちゃんって呼んでたから忘れてた・・・。」
「良いんじゃねぇのか?
ディオンさまからそう呼べって言われてたんだろ?
ユーリ譲ちゃんの事を孫のように可愛がってるんだしな。」
「そうですよ。ユーリさん。
気にする必要はないよ。」
二人がそう言ってた後、そのままユーリの部屋を出て行った。
ユーリは日課のリュウのブラッシングをしながら今日あったことを振り返った。
「冒険者の姫・・・。
変な通り名が知らない間についてたなんて・・・。
まだこの町だけだよな・・・。
早めにここから離れないとな・・・。」
今日の夕飯で、レオンがフィリウスに笑いながら、ユーリ自作の鎧の話をした。
「おい。フィル。
あの鎧はユーリ嬢ちゃんが作ったそうだぜ。」
「え・・・。やっぱり、そうだと思った・・・よ。」
フィリウスは森で見た鎧を思い出し笑ったのだ。
「ひ・・ひどい・・・。
そんな笑う事ないじゃないですか!
レオンさんも一々フィルさんに言わなくても・・・。」
「あら。ユーリちゃんが作った鎧?
是非、私も見てみたいわ。
今もあるのかしら?」
セシルがニコニコとしながら言った。
「乾いていたので料理長が良く燃えると言って、今日のディナーに使うと言ってました。」
「よし!シンさん。グッジョブ!」
その日の夜、ユーリは珍しくアイテムボックスの中を整理して、いつでも旅に行けるように準備を整え始めることにした。
翌日、ユーリは約束通りドレスを着て、セシルとお茶を飲んだ。
(うわ・・・。久しぶりのドレスは動きにくいし、疲れる・・・。
せめて、ワンピースにしとば良かった・・・。)
「~~~でね。あのリボンのデザインは~~。」
ユーリはセシルの話に合わせて相槌をしたり、そばにいるヘレナに話を振るなどして上手くかわしたのだ。
メイドであるマヤが昼食の時間になった事を言いに来てくれたので、セシルはユーリをドレスのまま、食堂へ連れて行ったのだった。
「珍しいの~。ユーリちゃんがドレスを着ているとはな~。
そうじゃ、忘れる所じゃった。フィリウス。
中庭の一部を儂に使わせて貰えんか?」
「え・・・?中庭ですか?
別に構わないですが・・・。何をするのですか?」
「フフフ・・・それはまだ秘密じゃ。」
ディオンはいたずらをする少年のような笑いをしながらユーリに口止めをした。
フィリウスはディオンの様子を窺いながらレオンの方を向いたが、レオンは大きく顔を振ったのだった。
昼食後、ユーリは急いで部屋に戻りドレスからワンピースに着替えている間に、ダンテが屋敷に来ていたのだ。
サムはダンテを応接室に案内をして、レオンにユーリとディオンを呼んでくるように頼んだ。
少しすると、小さな足音が近付いてきた。
サムは黙ってドアを開け、ユーリを中に入れたのだ。
「ダンテさん。お待たせしました。
急に呼び出してごめんなさい。」
「いえいえ。ユーリさんがそんな気にしなくて良いですよ。」
「あれ?ダンテさん。
昨日の制服よりキレイじゃない?」
「あ・・あぁ。これ?
ギルドマスターが新しい制服を用意してくれたんだよ。
なんせ、先代領主さまからの呼び出しだからね・・・。
失礼があっては・・・。
痛ッ・・・。胃が・・・。」
ダンテはユーリの顔を見た瞬間、緊張していた顔が緩んだが胃をさすったのだ。
「・・・大丈夫・・・。
ディオンおじいちゃんは怖くないよ?
意外とお茶目で可愛いよ?」
「ほほほ・・・。
儂を可愛いと言うのはユーリちゃんぐらいじゃよ。」
「ディオンおじいちゃん。
いつから居たの?」
「ディオンさまは、ダンテさんに気を使われてユーリさんが来るまで部屋に入るのを待っていたんですよ。」
ディオンの登場で少しユーリは驚いたが、ダンテはさらに緊張して深く頭を下げたのだった。
「まぁまぁ。ダンテと言ったな・・・そんな堅くならないで良い。
・・・そうじゃな。
とりあえず、ユーリちゃんの祖父と話しているつもりで気軽に構えてくれないかの?」
ディオンはダンテに優しく言うが、一向にダンテは頭を上げなかった。
仕方なく、ディオンはソファに腰掛けるように促したのだ。
ユーリはダンテをソファまで連れて行った。
ユーリはダンテの前に座り、その隣にはディオンに座ってもらい、ダンテの隣にはサムが座るようにお願いをしたのだ。
「ダンテさん。とりあえず、私とお話ししよう。」
とほほ笑みながらユーリが言うと、ダンテは少し緊張感がほぐれ、「あぁ。」と目を細めてユーリに微笑んだのだ。
シンが皆にお茶を配っている中、ユーリは視察旅行でディオンとある町を見て回った話をしたのだ。
しばらくユーリが話をしているのを聞いていたダンテの緊張感がなくなった頃を見計らって、ディオンはダンテに本題を振ったのだ。
「ダンテよ。
冒険者ギルドをやめる気はないかの?」
「え・・・?」
いきなり、ディオンが言うので一同は固まり、声も出なくなった。
「ディオンおじいちゃん。
唐突に言うとみんな、ビックリしちゃうよ?
なんで、ダンテさんにお仕事を辞めて欲しいの?」
「そうじゃな。ユーリちゃん。
ダンテには、儂専属の庭師になって貰おうと思っての。」
「庭師?
お昼にフィルさんから許可を貰ってた中庭の事?」
「そうじゃ。中庭の一部に薬草園を作って、そこでダンテに『ディア草』を育てて貰うかと思っての~。
そうそう。もちろん、屋敷にお前さんの部屋も用意するぞ。な?ダンテよ。」
ディオンはワクワクしながらダンテに提案をするが、ダンテは蒼白な顔で頷くしかできなくなっていた。
「れ、レオンさん。」
「おう?いきなり、どうした?ユーリ嬢ちゃん。」
「レオンさんが住んでいる建物に部屋、空いてない?」
「部屋・・・。あぁ、何部屋か余ってるぜ。
ダンテは、屋敷じゃなくて俺たち使用人が使ってる建物に住むか?」
「!!はい!
ディオンさまのお誘いはありがたいのですが、わたくしにはとても勿体ない話でございます。
ですので、レオンさまがお住まいの建物の方がわたくしに合っております。」
「ダンテさん。冒険者ギルドはやめても良いの?」
「あぁ・・・。
ギルドマスターが領主さま直属になる事になるならギルドの事は心配しなくて構わないと言われていたんだよ。」
「へぇ・・・。
すごいね。ギルドマスターのおばあさんって・・・。」
ユーリはダンテの言った事と、ダンテが仕事を辞める事に驚いた。
「あぁ・・・。あのばあさんか・・・。
確か、あのばあさんはディオンさんと古い仲でしたよね。
俺もライを連れて帰った時に冒険者ギルドの職員に誘われた事が、あのばあさんが職員よりも屋敷に行けって言ったしな・・・。」
「レオンの時とは別じゃよ。
レオンとフィリウスは一緒に旅に行った仲じゃし、お主は机仕事なんぞ向いておらんじゃろ?」
レオンは昔を思い出しながら話したが、ディオンは笑いながら話した。
「冒険者ギルドのマスターとは昔馴染みで、今でも仕事の話をしたりしておるからな。
名前までは聞いておらんかったが、王都から来た薬草に詳しい職員の事は小耳に挟んでおったしの~。」
ディオンがそう言うと話は細かい話に進んでいった。
ダンテの引っ越しはディオンが手配してくれるそうで、最低限の荷物だけまとめて明後日までにレオンが住んでいる建物に暮らす事になったのだ。




