1-19 王都。兄弟。
一行を乗せた馬車は王都に着いた。
正面玄関から入り、街並みはサラレイン領とは違い、華やかで人が多い。
建物も王都の中央に行くにつれて立派で大きな家が増えていく。
「王都は華やかじゃろ?ユーリちゃん。」
「はい。ディオンさま。
人も多くて、お祭りみたいですね。」
「ユーリちゃん。
お祭りみたいじゃなくて、本当にお祭りなんだよ。
学園に入る領主の子供や、貴族の子供が集まるからね。
領主と貴族の夜会や各領同士の交流、話し合いもあるんだ。」
フィリウスはこの前の夜とはまったくの別人のように顔を引き締めて領主らしく振舞っていた。
馬車はあと少しで王宮だと思ったが、途中の十字路を曲がったのだ。
しばらくすると、馬車は止まり、全員が馬車から下りた。
「相変わらず、ここは質素と言うか飾り気のないのぉ~。」
「まぁ、兄上らしいと言えば兄上らしいです。」
周りの建物は花や木が植えられたり、出窓に花が飾られていたりするのだが、目の前には大きなビルのような飾りも何もない建物が建っていた。
中から使用人の男性が出て来て、「お待ちしておりました。」とディオンたちを出迎えた。
サムは先ほど出迎えた使用人と一緒にどこかに行き、フィリウス一家とユーリたちは家に入り、応接室に入って行く。
建物の外見とは違い絨毯が引き詰められ、シンプルだが品のある家具が置いてある。
「ユーリちゃん。
ここは私の兄上と弟が住んでいるんだ。」
「弟もいるんだ・・・。
で、何人兄弟なんですか?
お姉さんや妹さんとかいないんですか?
(もうこれ以上、知らない人とかいないよね!)」
「居ないよ。
私は三兄弟の次男だ。
前にも言ったけど、兄上は王の側近をやっているんだ。
弟は小さい時から好奇心が旺盛でね、王宮で魔法関係の研究をしてるんだ。」
「へぇ・・・。研究熱心なんですね。」
「熱心・・・。いや、あれはもう一種の病気だ。ユーリ嬢ちゃん。
あいつは、寝食忘れて研究に没頭するんだ。
よく俺やフィルが声をかけてメシを一緒に食ったり、挙句の果てに口を開けて食わせろとか。
いつも部屋に籠ってるから外へ引っ張り出したな・・・。」
「人の弟を変な病気みたいに言うな。レオン。
まぁ・・・間違ってはないけどな・・・。」
(間違ってはないのかよ。)
しばらく、談話していたら外から誰かが来たようで扉が大きく鳴った。
そして、大きな靴音をさせながら部屋の前で止まった。
「父上、フィル。セシルさん。
ようこそおいで下さいました。」
勢いよく開けられた扉と共に、フィリウスによく似ているがヤツレ気味でオールバックの男と、その後ろに少し背の低い男が引きつられる形で入って来たのだった。
オールバックの男が部屋の奥のソファに座り、その後ろに背の低いやや寝ぐせのついたままの男が立った。
「ユーリちゃんは初対面だね。
紹介するよ。こちら、私の兄のオズワードと弟のイアンだ。」
オズワードは軽く頭を下げ、イアンがおずおずと頭を下げた。
「フィル、いつの間に娘が出来たんだ?
知らせなどなかったのでは?」
「エドワードがいるから知らないのは変だよ。オズワード兄上。
これはあれだ!
クロードが双子だったとか、・・・・もしかして、分裂でもしたのか!
それは面白そうだ・・・。
是非、髪の一本でも・・・。」
イアンの前髪が目にかかり隠れているが、見えていないはず目が輝いているように見えて、ボソボソと一人事のように呟き始めた。
フィリウス、レオンが立ち上がり、イアンの頭を三人で殴ったのだった。
「すまない。
ユーリちゃん、驚かせてしまったようだ。
イアンはこう見えて国、随一の天才だとか、研究者の鏡とまで言われているんだが・・・。
それ以外に関しては・・・こうでね・・・。」
「そうそう。
こいつ、見た目がこうだが、根は良いヤツ・・・なんだ。
まぁ、ちょっと頭がアレなんだがな・・・。」
「アレって・・・。
まぁ、良くバカと天才は紙一重って言うし、気にしてないよ。
フィルさん、レオンさん。そして、オズワードさんも。」
「・・・。弟と無礼を申し訳ない。
キミはユーリと言うのか?」
ユーリはソファから下り、スカートの裾を持ってお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。
私はユーリと申し上げます。
以後、お見知りおきをお願いします。オズワードさま、イアンさま。」
家庭教師に教わったご令嬢並みの挨拶をしたユーリを見た男四人はポカンとしたり顔を赤らめたりした。
「・・・。ユーリちゃんは可愛いわ~。
やっぱり、私たちの娘にならない~?
今からでも遅くないわ。
クロードたちと一緒に入学しましょうよ?」
「いやいや。
それについてはもう話がついたではないか、セシル。
もう入学まで五日もないんだ。
手続きはともかく、準備すら出来ないよ。」
セシルはユーリに詰め寄り、両肩を掴んで言った。
つい、ユーリがイエスと言いそうになる前に、フィリウスがセシルを止めるように話した。
「いや・・・。
手続きなどどうにでもなる。
ユーリが王都に滞在し続けてくれるのだろ?
そのぐらい、この私がどうにでもしてやるさ・・・。」
魔王のごとく笑いながらオズワードが言うとセシルは喜んだが、ディオンやフィリウス、レオンは固まった。
「我が息子ながら・・・やりおるな・・・。」
「・・・兄上なら、本当にやり兼ねない・・・・。」
「さすが、『ゼノンの悪魔』・・・。」
「・・・・・。
私は貴族でもなんでもない庶民です。
それに、学費とか払うあてもありません。
サラレイン家の方々には良くしてとても感謝をしています。
これ以上の好意は私には勿体なくてバチが当たってしまいます。
私はもう立派な冒険者です。
自分のことは自分で出来ます!」
ユーリは勢いよく言い切る。
しかし、その心は通じていなかった。
セシルはハンカチを取り出し、涙を拭った。
ディオンとフィリウスは薄っすら涙を浮かべ、レオンはユーリの肩を叩き、「そんな急いで大人にならなくて良い。」と言ったのだった。
(いや。もう十分、大人だから・・・。)
みんなで夕食を食べていた時、イアンは早々に食べ終わり「研究があるから。」と言って席を立って、王宮へと向かったのだった。




