1-17 王都までのある日の事
ユーリはサムに抱えられたまま、部屋へと戻された。
そして、サムとシンが一度部屋から出るのとすれ違いでマヤが入って来たのだった。
マヤによって今のドレスより動きやすく身軽なワンピースに着替えさせられた。
着替え終わり、マヤが扉を開けるとそこにはディオンが居たのだった。
「おぉ。ワンピース姿も可愛いのぉ。」
ディオンは真っ白なヒゲを撫でながら微笑んだ。
「で、ディオンさま。ごめんなさい。
黙って町に行ったりして、ご心配をかけしました。」
ユーリはディオンに謝りながら頭を下げた。
「心配せんでもええ。
怒りに来たわけではないし、心配はしたが予想の範囲内じゃよ。」
ディオンは優しい声でユーリに話しかけ、頭を撫でた。
「もちろん、レオンやシンも罰を与えたりなどせんぞ。
でもな、ユーリちゃんの部屋を変えさせて貰うぞ。」
ディオンはウィンクして楽しげ話した。
「部屋ですか?」
「そうじゃ。
まだ子供だったフィルが使っていた部屋でワシの部屋の隣じゃよ。
ユーリちゃんの荷物はどこにあるかい?」
ディオンの後ろに控えていたシンが部屋の机に置いてある小さなカバンを持ち上げた。
「確か、このカバンだけだったはずです。」
「ほぉ。それだけかの。」
シンはユーリが到着した日に荷物を代わりに運んだのでしっかりと把握していた。
ディアスは驚きつつも満足げに声に出し喜んだ。
「さぁ、ユーリちゃんも今日は移動ばかりで疲れておるじゃろ。
さっさと部屋を移動して今日は早く寝るのじゃよ。」
ディアスは「そうそう。今夜の夕飯は部屋で食べるが良い。」と言い、ウキウキしながら部屋の案内をし始めた。
リュウとアクアはそれぞれカバンが出て、アクアはリュウの頭の上に乗り、リュウはユーリのそばに移動した。
ユーリも自分で歩こうと思ったが、サムが再び抱えて移動することになった。
サム曰く、「今日はたくさん歩いたのでしょう。子供なら少しは大人に甘えなさい。」だそうだ。
そして、さっきの客間よりは狭いが、以前の森の居間より十分に広かった。
部屋のタンスに隠れた形で扉がついているのをユーリは入った時に見つけたのだった。
ディアスはユーリたちを部屋に連れていき、すぐに部屋から出て行った。
何やら、まだまだ仕事が残っているそうだった。
サムから解放されたユーリは部屋のソファに座らされて、お茶を出された。
「サムさん、あのタンスの向こうにあった扉はなぁに?」
「あぁ、あの扉かい?
なんでも、昔はフィリウスさまの兄弟が使っていたそうだよ。
奥さまはユーリさんの衣裳部屋にしたかったようだけど、私とシンの部屋になったよ。
なんでも、旦那さまと大旦那さまがその方が都合良いそうだよ。
まぁ、今ならお二人のお考えも私にも分かるさ。」
「・・・はぁ??」
サムの爆弾発言に思わず、ユーリは顔を崩しながら言った。
(どうやら、私の見張りはレオンさんでは役不足で、今度はサムさんとシンさんの二人になってしまったのか・・・。
しかも、隣の部屋はディオンさん・・・)
ユーリは夜中、朝早くに屋敷から抜け出すことは諦めた。
翌朝になり、昨日と同じようにマヤとミアに着替えをしてもらい、みんなで朝食を食べた。
そして、午前中は、クロードとライと一緒にお勉強をすることになった。
主に、ユーリは歴史や文化について良く家庭教師の話を聞き、計算などになればライに説明をしたりして仲良く習った。
リュウとアクアはユーリの足元で大人しく待っていた。
午後からはクロードとライはレオンに剣の稽古をつけて貰っていたが、ユーリはギルバード一緒にセシルとお茶をしたりしていた。
ギルバードはクロードの弟でまだ4歳の男の子で母親に甘えたり、ユーリと一緒に遊んだり、少し心配はしたがリュウとの仲良く遊ぶようになった。
そんな日々を過ごしていると、セシルは王都に行く準備に忙しくなり、ユーリの相手をしている暇がなくなったのだった。
ユーリとギルバードは中庭でリュウとじゃれ合って遊んでいたが、ギルバードがお昼寝をしてからはユーリのやる事がなくなったのだった。
そんな様子を見ていたサムがユーリをクロードとライの剣の稽古を見るように勧めてきたので、シンとサム、ユーリは一緒になってレオンたちから少し離れた場所で見ていた。
クロードとライは二人でレオンに向かっていくが、かわされたり子供たちの剣を叩き落したりしていた。
クロードとライの息が上がり倒れこんだところで、レオンはユーリに目を向け話しかけた。
「おい。ユーリ嬢ちゃん。
どうだ。一緒にやってみないか?」
「ホント!レオンさん。
(ずっと二人の稽古を見てるだけで、つまんなかったんだよね。
本当は私も体を動かしたくてしょうがなかったんだよね!)」
ユーリは基本的に動きやすいワンピースか、ズボンを履いて過ごしていたので着替えをせずに済んだのだった。
「あ、どうせなら、相手は俺じゃなくて、シンにやらせてみようか。」
「いけません・・・。
私ではうまく手加減など出来ませんから・・・。」
シンは珍しく焦ってレオンに断っていた。
「大丈夫。大丈夫。
ユーリは森での経験もあるし、お前相手ならちょうど良いだろう。」
「ホント!
シンさんが相手してくれるの!!」
ユーリは嬉しそうにシンを見た。
その隣にいたサムは「回復魔法なら私も出来る。」と呟き、自らの手を握った。
シンとユーリは共に木刀を持ち、向かい合っていた。
「はじめ!」とレオンが言うと、ユーリはシンに打ち込んだ。
何度かユーリが打ち込んだのをシンが受け止めた。
しばらくすると、ユーリはシンから少し離れ、ニヤリとほほ笑んだ。
すぐにユーリはシンに詰め寄り、打ち込んだ。
それに合わせてシンは木刀を上に振り上げたが、下ろした時にはすでにユーリはそこにいなかった。
シンは後ろに気配を感じ、振り向こうと首を向けた瞬間、目の前に小さな影が浮かんで迫っていた。
木刀は目の前に止まったが、勢いは止まらず小さな影がシンを押し倒したのだった。
シンはユーリを庇いながら倒れ、見ようによってはユーリがシンを押し倒したようにも見えたのだが、ヒョイっとレオンがシンの上からユーリを持ち上げたのだった。
「やっぱり、ユーリ嬢ちゃんの方が一枚上だったか。」
「あはは。やった~。
シンさんから一本取った~。
本当はあのまま着地するつもりだったけど、勢い余って押し倒しっちゃった。」
明るく笑い合う二人に、少年二人とサムは唖然としていた。
ユーリを下ろしたレオンはシンに手を伸ばし、「大丈夫か」と言いながら立たせた。
クロードとライ、シンは固まったままだったが、すぐさまサムが近づいた。
「ユーリさん。お怪我はありませんでした?」
「うん。どこも痛くないよ。」
「何があったのですか?」とシンが言ったのだった。
「ユーリ嬢ちゃんは、シンの癖をもう気付いただけさ。」
「うん。
シンさんは木刀を振り上げた時に、脇腹にスキが出来るの。
そして、シンさんは横の動きに弱いよね?
だから、私はシンさんが振り上げた瞬間に脇から後ろに回ったの!」
「そうそう。
シンはやたら振りが大きいんだよな。
大振りの方がダメージも上がって良いが、その分視界が狭まる。
大振りはここぞと言う時に使って、普段はもう少し小振りの方がいいぞ。
その分、ユーリ嬢ちゃんは強弱があって良かったぞ。」
レオンはユーリの頭を派手に撫で、褒めた。
その様子を見ていたクロードとライは「スゲー。」とユーリを尊敬する眼差しで見つめた。
「(クロードも意外と素直で可愛いかも。)
シンさん、ごめんなさい。
大丈夫?体、痛くない?
あと、倒れそうになった時に咄嗟に私を守ってくれたでしょ?
ありがとう。」
ユーリはシンに近付き、笑顔で言うと俯き、「大丈夫。」と返事をしてくれた。
そんな風景を二階から白髪の男性-ディオン―は見つめ、お茶を飲んだのだった。
シンとの試合。
ずっと書きたかったシーンの一つだったので、ようやく書くことが出来て嬉しいです。




