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不可思議なお茶会

 ボスケッティ神父からの要請をエリックに全部、「えいや」っとぶん投げて江莉香はコルネリアをペタルダの薬屋に案内した。


 「ここですか」

 「はい。どうですか? 」

 「どうと言われても、ただの店としか」


 店の前でコルネリアは黒猫の看板を見上げて首をかしげた。

 何とも妖しいペタルダの正体も、コルネリアなら見抜けるかもしれないと思って連れてきたのだ。薬の買い出しのついででもあるが。

 私の勘ではどこにも縛られない、はぐれ魔法使いのような気がする。


 「お邪魔します」


 扉をそっと開けると、漢方薬のような匂いが鼻に付く。


 「あら、エリカね。いらっしゃい」


 珍しく、ペタルダが店に出ていた。いつもは店の奥にいるのに。


 「何をしているんですか」


 カウンターに色々な草やら根っこやらが雑然と並んでいる。


 「調合よ」


 ペタルダは薬研に黄色い葉っぱを入れてすり潰し始めた。

 ああ、時代劇で髭の先生がゴリゴリしている奴だ。ヤモリの干物とかも入れるのかな。


 「薬の調合ですか。本当に調合していたんだ」


 妖しい力で薬を作っているのかと半分本気で信じていた。それぐらいよく効く薬だし。


 「どういう意味かしら」


 無機質な笑顔を向けられる。怖いです。


 「そちらは、どなた」


 ペタルダがコルネリアに視線を向けた。


 「こちらは魔法使いのコルネリア。私の師匠です」

 「あら、魔法使いとは珍しい。ごきげんよう。私はこの店の主人、ペタルダよ」

 「こんにちは」


 コルネリアが挨拶を返すがどこか居心地悪そうだ。


 「せっかくお客さんが来てくれたことですし、一休みしましょうか」


 ペタルダは調合の手を止めて立ち上がった。

 つられて視線も上がっていく。やっぱり私よりも背が高いし、コルネリアからしてみたら頭一つ分高い。


 「こちらへ、いらっしゃい」


 案内されるままに店の奥に足を踏み入れた。

 店の奥には明り取りの中庭があり、中央には水を張った水槽が設置されている。そこに上からの光が水に反射されて淡い光を室内に導いていた。

 地面は石畳で整地されて植物の影はないが、坪庭のような趣だ。

 

 「なんか。洛中の町屋みたいな作りですね」

 「なにが? 」


 江莉香の感想にペタルダは楽しそうに尋ねる。


 「すいません。小さい庭から明かりを取るのが、地元の古い家の造りに似てたもので」

 「そうなの。この家はそんなに古くないわよ。さぁ。お座りなさい」


 水槽の傍にテーブルと椅子が並べられている。


 「お茶を用意するわね」


 ペタルダが奥に引っ込むと江莉香は周りを眺めまわす。

 壁や梁にふんだんに色味の違う木材が使われ、それが水で反射された明かりで揺れている。


 「変わった作りの家ですね。寄木細工みたい」

 「・・・そうですね」

 

 コルネリアの返事の歯切れが悪い。


 「もしかして、調子悪いの」

 「いいえ。ただ、何と言えばよいのか、靄がかかったような。オドの流れがおかしい」

 「オド? ってなに。初めて聞く」

 「大地から湧き上がる魔力のようなものです」

 「へぇー。そんなの分かるんだ。地面から魔力ね」


 江莉香は中庭を見渡すが、特に異変は感じない。

 流石、コルネリア。

 素直に感心して見せるとコルネリアはびっくりしたような顔をする。


 「なぜ、分かるのだ」

 「はい? いえ。私は分かりませんよ」

 「違います。私がなぜオドを感じるのだ」


 コルネリアの質問の意味が解らなかった。


 「私はオドの研究はしたことが無い。王都の学び舎で聞きかじっただけだ」

 「ん。だから分かったんでしょ」

 

 予備知識があるのと無いのでは、未知への現象への理解度も違うだろう。実際私は何も感じない。地面から湧き上がる魔力って風水で言うところの地脈みたいなもんかな。

 コルネリアはゆっくりと周りを見回しながら沈黙に入った。

 いつも以上に両の目を見開いている。

 あちゃ、研究、観察モードに入ったわね。確かに不思議な空気感が漂う建物だ。

 やっぱりあの人はただ者ではないようね。それがわかっただけでも収穫だ。後は、敵対しないようにするだけよ。出来れば味方に。


 「お待たせ」


 五分ぐらいでペタルダがお盆を乗せて戻ってきた。

 お盆にはティーポットとカップが三つに小さな壺。ティーポットからは金木犀に似た香りが漂ってくる。


 「良いお茶が作れたのよ」

 

 並べたカップにお茶が注がれていくと、どこかセンチメンタルな香りが広がった。


 「うわぁ。良い匂い。何の葉っぱですか」

 「ふふ、内緒よ」

 「教えてくださいよ」

 

 カップを鼻に近づけ香りを一杯に吸い込んだ。

 ああ、良い匂い。私この香り好きかも。


 「これに、この前エリカが持ってきてくれた砂糖を入れて楽しむのよ」

 「おお、豪華」


 壺の中には砂糖が入っていた。早速カップに砂糖を入れてかき混ぜた。

 普段はハーブティーに砂糖は入れないけど、この香りならいけそう。

 江莉香が一口お茶を含むと香りが鼻を抜けていく。


 「美味しいです。この葉っぱ分けてください」

 「いいわよ。帰りに包んであげる」

 「やったー」


 このお茶が街で流行ったら、砂糖の需要が今以上に上がるかもしれないわね。それぐらい美味しい。


 「コルネリアは飲まないの」


 コルネリアはカップを手にしたまま固まっている。本当に様子がおかしい。


 「あら、お口に合わないかしら」

 「ああ、いや、失礼した。頂きます」


 声を掛けると機械人形のようなぎこちなさでお茶を口に含んだ。


 「どう。いける? 」

 「ああ、とても美味しい」

 「気に入ってもらえてよかったわ」


 ほほ笑むペタルダに向かってコルネリアの視線が厳しくなった。カップを下ろして硬い声を出す。


 「ご主人。あなたは」

 「ペタルダ」

 「ん」

 「ペタルダよ。コルネリア」


 気が付くと二人がにらみ合っているように見える。一人は無表情にもう一人はほほ笑みながら。


 「それでは、ペタルダ。貴方は何者ですか」

 「ご挨拶ね。エリカ。私が何者か教えてあげて」


 こちらに、予想外の弾が飛んできた。

 いや、貴方が何者かは私も知らないわよ。

 

 「薬屋さん・・・自称」

 「そうよ。満足? 」

 「そうか」

 

 コルネリアはそれ以上の詮索を諦め、一息にカップの中身を飲み干した。


 「お替わりは必要かしら」

 

 ティーポットを片手にペタルダが立ち上がる。


 「頂きます」

 「ふふっ、素直ね。ところでコルネリアは魔法使いということだけど、魔法使いは普段何をしているの」

 「魔法使いですか・・・」


 コルネリアが考え込む仕草をする。


 「貴方の事でいいわよ」

 「今は、魔道具の研究をしている・・・」

 「続けて」


 ペタルダは長い脚を組んで椅子に腰かけた。裾からこぼれるその白い脚に女ながらドキッとする。


 「光の魔力を道具に込めることを研究している。魔道具と呼ばれる代物だ」

 「へぇ。そうだったんだ。あっ、私の腕輪もその研究」


 江莉香は左腕の腕輪をさすった。


 「それは別口です。だが糸口にはなるだろう。光の魔道具は数も少なく、上手くいかぬが、完成すれば画期的な力を得られるだろう」

 「面白そうね。その魔道具は何に使うものなの」

 「今、研究しているのは暗闇で長く輝く魔道具だ」

 「それって、電球? 凄い。そんな研究してたんだ」


 こんな身近にエジソンがいたなんてびっくり。


 「ええ、私の想定では火の魔道具よりもより明るく光るだろう」

 「あら、光るだけなの」


 ペタルダが挑発するように語り掛ける。

 ちょっと。煽んないでよ。こう見えてもコルネリアは純情可憐な研究女子なんだから。


 「いや。ずっと光るだけでも凄いわよ。夜でも活動できるし。私も欲しい」

 「それだけではない」


 せっかくフォローを入れたのに遅かったようで、ムキになってしまいました。


 「恐らくだが・・・遠くの・・・」

 「なに」

 「いや。憶測で話すのは良くない。私の辿る道は遠いという事だ」


 コルネリアは思い直したように首を振った。

 おお、立ち直った。流石。


 「これが、話に出た腕輪ね」

 「うわ、ちょっと」


 獲物に襲いかかる蛇のような速さでペタルダに左腕を掴まれた。心臓に悪い。


 「いいから」


 目を細めて、舐めるように江莉香の腕輪を見る。


 「ふふっ、この腕輪では無理よ。待っていなさい。いいものを用意してあげる」


 ぽいと腕を離すと、ペタルダは立ち上がり奥に引っ込んでいった。


 「あの、何が何だか分からないのですけど、何の話」

 「さあ」


 コルネリアはいつもの調子を取り戻したのか、お茶に口を付けた。

 出されたお茶を飲み切った頃にペタルダが戻ってきた。今度も両手に何か持っている。


 「これを貸してあげるわ」

 

 コルネリアの前に手にしたものを置いた。そこにあったのは占いで使われそうな大きな透明の玉だ。


 「これは・・・水晶球ですか。お気遣いは有難いが、水晶球では無理なのだ。魔力に耐えられず砕ける」

 「大丈夫よ。これはね」

 「なぜ」

 「自分で確かめなさい」


 コルネリアは微笑みを絶やさないペタルダを一瞬睨んだが、すぐに表情を消す。


 「いいでしょう。代償は」

 「これが、光の魔道具になったら私に返しなさい。ただし返す時期は貴方の好きで構わないわ」

 「五年、十年掛かるかもしれない」

 「結構よ」


 二人の会話に付いて行けず目を白黒させる江莉香であった。



                 続く

世の中の人間は二種類に分けられる。ジャスミンティーが飲める人間と飲めない人間だ。飲めない人間は芳香剤を飲んでる気分と言う。そうかな(。´・ω・)?

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― 新着の感想 ―
[一言] 最近はルイボスティーも出てきてますね
[一言] ジャスミンティー…うん十年前に中国の田舎(村…なんとか公社って言ってた)でカップ酒のガラス容器に茶葉とお湯を入れて出されたジャスミンティーは味はお茶だけど匂いがトイレのの芳香剤で…お茶が無く…
[一言] 後書きのジャスミンティーの件、様々な物にありますよね。 ミント味のアイスとかを「チョコの入った歯磨き粉のアイス食って美味いか?」とか。
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