素晴らしきはチームワーク
脳をフル回転させていた江梨香は、二人のやり取りを聞いて瞬きをした。
エリックが思いのほかに強いパンチを放って、びっくり。相手の言い分を正論で叩きのめすという、パワームーブ。リリーナ様は怒りに震えている。
ちょっと大丈夫なの。しっかし、私が介入するには早い感じ。
重苦しい空気感の中、睨み合う二人。そこにセシリーが助け舟を出した。
「エリック。その様に申し上げては、リリーナ様の面目を傷つけかねませんよ」
セシリーの言葉を受けたエリックは、小さく頭を下げた。
「出過ぎた物言い。お許しを」
しばしの沈黙。重たい空気感の中、リリーナ様は何とか声を絞り出した。
「よい。シンクレア卿の言は尤もなことである。わらわも無理を言った。許せ」
セシリーのファインプレーで、一触即発の雰囲気が少し和らいだ。
口を挿むには良いタイミング。ここからは、私の出番かな。
「あのー。仮の話でお聞きしたいのですけど、マリエンヌが生きていたらリリーナ様は、どうするおつもりなのでしょうか」
「無論、保護する」
「具体的には」
「我が領地に引き取る。二度とあの子に害が及ばぬようにな」
「なるほど。ありがとうございます」
OK。理解した。
要するに、取り戻したいのね。かつての穏やかな日々を。巻き返したいのね。過去の自分の失態を。
リリーナ様の主観のお話だけど。
失ったあの日々を取り戻す。そのためのお茶会ってことか。
誘いを受けた私たちが打ち解けた頃に、ファルディナのお話をして証拠の文書を突きつける。私たちが認めたらファルディナを引き取って、めでたしめでたし。か。
うーん。
私が言うのもなんですけど、リリーナ様ってば交渉が下手。
私だったらもっと丁寧に時間をかけて、相手との距離を詰めていくけどな。出会ったその日に突っ込んだ話なんて無理筋。
どうしても時間がないのであれば、交渉相手が食いつきそうな餌を用意する。
例えば法外な報酬を与え、脳のメモリを飽和状態にしてから、証拠の品を突きつけ反撃の余地を与えず畳みかける。
そうすれば報酬を受け取った手前、強く拒否しにくくなるし、一度受け取った報酬を突っ返すという無作法を強いる事が出来る。
これをやられたら、正直かなりキツイ。
私ならそうやって追い詰めるけどな。どうして、そうしなかったのだろう。
まぁ、それはいっか。今はこちらが畳みかけるターンよ。きっちり詰めていきましょう。
「リリーナ様。もしもマリエンヌが生きていたとしても、リリーナ様が匿うことは難しいですよ」
「なぜだ」
なぜって。謀反人なのよ。正しくはその娘だけど。
「だってリリーナ様は、マリエンヌのご友人なのでしょ。そんな所、いの一番に調べられますって。直ぐに見つかって連行されます。良くて幽閉。下手をすると死刑になるかもです。私は王都で十人委員会の人と対峙しましたけど、あの人たち優秀ですよ」
「王都から遠く離れた我が領地まで、奴らが嗅ぎ付けるとは思えんが」
「生きていたら、どこかで洩れますって」
実際、ビーンの取引証書で洩れてるわけだし。
「ですからマリエンヌは死にました。死んだ人間は罪には問われません。ってことは、幽閉もされませんし、まして死刑になんてなりません。絶対です」
私の本意が伝わるかは半分賭けだ。これは受け手側の読解力というよりも、フィーリングの問題。
エリックに目配せをする。
追い打ちよろしく。
私の視線を受けたエリックは、三秒ほど考え正しい答えへとたどり着く。
「エリカの言に賛同いたします。現状ではマリエンヌ嬢は決して死刑になる事も、幽閉されることもありません。ですが、生きているとなれば話は別でしょう。彼女が暗い地下牢に閉じ込められる未来を、リリーナ様はお望みではないでしょう」
エリックに続き、セシリーとコルネリアも加勢してくれた。
「リリーナ様。エリックとエリカの言う通りでございます。過去ではなく未来にお目を向けてくださいますよう、お願い申し上げます」
「未来は神々の祝福を受けるとも申します」
ありがとう。みんな。完璧なチームワークよ。
特にコルネリアの言葉の意味をよく考えて。ってか"神々"っていうフレーズは、だいぶ突っ込んだ表現。
事前の打ち合わせなしに、この団結力。この件ではみんなで苦労したもんね。私なんてエリックに書類で頭をしばかれたぐらいには苦労した。後、命も狙われた。だからこその一体感。
「未来・・・であるか」
目を閉じで思案していたリリーナ様が、ぽつりとつぶやく。
「はい。過去は過去です。取り戻すことはできません。誰にも」
私の言葉にリリーナ様が苦笑を浮かべる。
「過去は誰にも取り戻せない・・・か。フフッ。流石は神々の娘。含蓄のあるお言葉である。少々、耳に痛いがな」
「やめてください。その肩書は、私にとってけっこう重いんです。私はただの江梨香です。窪塚 江梨香。それが私の本質です」
「本質か。わらわは自身の本質がなんであるかなど、とうの昔に見失った。そのことを、もはや悲しいとも思わなくなった。そうか。あの子はもうこの世にはおらんという事か」
その目には確かに涙の欠片が宿っていた。
「はい。遺憾ながら」
これは脈ありかな。
マリエンヌは消え、ファルディナが生まれたという事実を受け入れてもらう下地ができたのかも。
「誠に遺憾である」
やったー同意してくれた。そう言ってくれたら、次のステップへと向かえるわ。
どう持っていこうかなと考えていると、エリックが口を開く。
「リリーナ様。この遠征の後に、我が領地ニースへお越しください。海沿いの何もない小さな漁村ではありますが、きっと喜んでいただけるでしょう」
エリックの提案にすかさずセシリーが同意を表す。
「ああ、それはとても素晴らしいお誘いです。リリーナ様。是非ともお越しくださいませ」
二人のナイスなコンビネーション・アタック。私も続かなきゃ。
「歓迎します。ニースで過去をお見せすることは出来ませんが、未来ならお見せする事が出来ます。必ずや、満足していただけるはずです」
ここでリリーナ様の思いを突っぱねるような対応は厳禁よ。この人は千人長。最悪、ニースに千人の軍勢で乗り込んでくるかもしれない。ニースは村の人をかき集めたとしても千人もいない。戦争にならなくても、勝敗は誰の目にも明らかよ。
そんな事態を回避するためにも、先手を打って招待するべき。エリック。ナイスアイディア。
「過去ではなく未来を見せるか。大きく出たな」
「はい。口先だけではないとお約束いたします」
そうよ。こんな所で腹の探り合いなんかするよりも、ニースに招く方がよっぽど建設的。
ファルディナの件を口止めしたいなら、出先のテントの中でごそごそするよりも、私たちのフィールドでやり取りをした方がいいに決まってんの。ニースでファルディナを交えてしっかりとご説明申し上げ、ご理解とご協力いただくのがベスト。
「わかった」
リリーナ様が頷くと、エリックが証拠として突きつけられた契約書を片手に止めの一撃を放つ。
「では、ニースから正式な招待状をお出しいたしましょう。我がギルドには優秀な祐筆がおります。楽しみにお待ちください」
「楽しみにしておる」
「はっ」
よし。終わったー。
何とか穏便に事を済ませられそうで一安心。
続く
誤字報告、いつもありがとうございます。感謝しております。
これが本作における戦闘シーンです。
剣や魔法やスキルではなく、知恵を巡らせて戦います。
今回はそれを強調して描きました。
勇者であるエリックが切り込んで、魔法使いである江梨香が戦果を拡大。プリースト役のセシリアがフォローして、賢者役のコルネリアが核心を突く。
なろうの流儀に則り、男一人に女三人の布陣でもあります。




