表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
219/257

青いクラゲとS級魔道具

 私の問いかけに、団長は困ったような表情を浮かべた。

 何か不味いことを聞いたらしい。

 えーっと。


 「エリカ。こっちに来てよ」


 戸惑っていると、団長が部屋の奥へと手招きをしたので素直についていく。

 部屋の奥は、金属製の柱がど真ん中を貫いており、その中心部には光る何かが埋め込まれいてた。

 埋め込まれていたのは緑色の巨大な石。

 大きさは、バスケットボールぐらい。

 それが、緩やかに回転しながら、淡い光を部屋中にばらまいていた。


 「なんですか。これ」


 緑色に光る石を覗き込みながら尋ねた。


 「説明するより、実際に触ったほうが早いよ」

 「えっ、触っていいんですか」

 「うん」


 いい笑顔に促され、恐る恐る光る石に手を触れた。同時に強烈な眩暈にも似た感覚に襲われる。

 この感覚には馴染みがある。これは魔力の流れだ。



 江梨香の網膜の裏側で白い光が炸裂した。

 光が収まると、そこは、どこか別の場所だった。


 「えっ、どこ、ここ」


 何もない空間。

 白い床に、光る天井。いや、あれは天井なのか。

 目の前にはさっきの緑色の石が空中で回転していた。

 団長はどこに行ったのだろう。


 『なんだ。ここは』


 左の耳から聞き覚えのある声が木霊した。

 声がする方向に顔を向けると、顔の高さぐらいで、青色の何かがフヨフヨと浮かんでいる。


 「キャッ・・・なに? これ? 」


 クラゲのように漂う、青い何かを観察する。


 『本当に、なんだこれは』


 青いクラゲが私の言葉に同意するが、私が聞いているのはあなたの事なんですけど。

 身体は半透明で、中心部に光源のようなものが瞬いており、その色合いから危険な感じはしなかった。


 「あなたが話してるの? 」


 青いクラゲに向かって問いかけるが、反応はない。


 「ちょっと、無視しないでよ」


 クラゲの真正面に立つ。

 どこが正面かは不明だけど。


 『・・・・・・はい? 』


 驚いたようにクラゲが点滅した。


 「あなたよ。あなた。あなた、もしかしなくても腕輪さん?」


 自分の左腕を掲げて見せる。

 いつも身に着けている銀の腕輪が煌めいた。

 声だけは何度も聞いたけど、姿をはっきりと認識したのは初めてね。

 ドルン河の河畔で、夢に出てきたときは、人の形だったような気がしたけど、本性はクラゲだったのか。


 『はい。なに、見えてるのか。俺が』

 「うん。見えてる。青いクラゲみたいだけど」

 『青い・・・クラゲだと・・・はーっ。奇妙な空間だな。おい』

 

 興奮したのか、青いクラゲが激しく点滅を繰り返した。


 「こんにちは。ちゃんと話すのは初めてですよね。いつもお世話になっています」


 深々と頭を下げた。

 腕輪さんには、危ないところを何度も助けてもらった。


 『あー、こいつはご丁寧に。こっちも好きでやっていることだから気にするな』


 このクラゲみたいなのが、私の腕輪の精霊であることは間違いないみたい。


 「で、ここはなんなの」


 初対面だけど、会話だけなら何度もしているから気軽に話しかける。

 腕輪さんの方も、気安い感じで返答をしてくれた。


 『さあな。魔導空間か何かかな。俺にも分らん』


 腕輪のクラゲは、空間を観察するように上昇、下降を繰り返す。


 「マドウクウカン? ってなに? 」

 『魔力で構成された別の次元のことだ。たった今、俺が勝手に作った言葉だから気にするな』

 「はぁ」


 勝手に言葉を作った・・・ってことは、やっぱり自立した知能があるのね。腕輪さん。

 学習型トップダウン式AIとかではなく、生き物に近いのかな。


 『俺も似たようなことはできるが、ここまで巨大な空間は無理だ』

 「ふーん」


 腕輪さんについて勝手に憶測していると、負けず嫌いなのか、悔しさが滲んだ感情が伝わってきた。


 『あれが、この世界の中心だな』


 クラゲが緑色の石に向かって進むので、後に続く。


 『江梨香の嬢ちゃん。触ってみろ』


 石の寸前で立ち止まったクラゲが振り返る。

 そっちが前なのね。


 「触るって、これに」

 『ああ、これに触れれば、この空間が何かわかるだろうよ』

 「ほんとに」

 『信用しろって』

 「信用はしてますけど」


 促されたので、恐る恐る左腕を前に出した。

 熱いものを触るように、パッと触って手をひっこめる。

 固い物体が確かにそこにある。


 『もっと長く触れてくれよ。観測できないぞ』

 「人を実験台にして」

 『俺は触れられないみたいだからな』


 クラゲは石を通り抜けて反対側に陣取った。

 はいはい、分かりましたよ。

 仕方がないので、意を決して腕を伸ばす。

 緑色に輝く石は、想像より冷たかった。

 石が一瞬だけ光を強めると、私の左腕でガチンと何かがかみ合ったような音がした。


 『あー。はいはい。なるほどね』

 

 その様子を見ていたクラゲは、合点がいったのか、私の左腕で止まった。


 『今からお前さんの魔導回路を繋ぐから、そのままでいろよ』

 「えっ、何をする気」

 『直ぐにわかる』


 その言葉が終わらないうちに、私の中に存在するらしい膨大な魔力が腕輪を伝い、緑色の石の中に注ぎ込まれるのを感じた。

 魔力を注ぎ込まれた石は、強烈な光を放つと、その上に金色の奇妙な文様を浮かび上がらせる。

 文様は私の魔力を吸い込むと、連鎖反応的に広がっていった。


 「なにこれ」

 『こいつはたまげた・・・これを作った奴は天才か大馬鹿か。どちらにしろ、相当な変態だな。何を考えてるのやら』

 「一人で納得してないで、私にも説明してよ」

 『ああ、すまんすまん』


 話している間にも、次から次へと集積回路を繋ぎ合わせたような光景が、視界一杯に拡大していく。


 『こいつは、超巨大な魔道具の一種だ。妙な塔だとは感じていたが、この塔全体が一つの魔道具のようだな。ご苦労なこった』

 「魔道具・・・ってことは、あなたのお仲間ってこと? 」

 『いいや。俺がクラゲなら、こいつは巨大隕石だ。全く違うものさ』


 分かったような、分からないような返答が返ってきた。

 

 「で、何に使う魔道具なの」

 『分からん』

 「ちょっと、ふざけないでよ。人を実験台にしたのに」


 思わせぶりに話しておいて、結論が分からんって。


 『ふざけてなんかない。分からないものは分からない。俺は誠実だ』

 「どこがよ」

 『仕方ないだろう。今、発現している魔法式は全体のほんの一部だからな』

 「えっ、これでほんの一部なの」


 眼前に繰り広げられる光景と、聞かされた言葉のギャップに呆れる。

 あの集積回路みたいなのの一つ一つが、腕輪さんの言う魔法式なのだろう。感覚で分かる。


 「参考までにお聞きしますけど、私の風の魔法でどれぐらいの魔法式なの」

 『こんなものだな』


 目の前に簡素な魔法式が一つ現れた。

 物凄く単純な構成をしている。

 向こうが複雑怪奇な証明の計算式だとしたら、私の風の魔法は足し算ぐらい簡単な式。


 『光の魔法で、こんな感じだ』


 さっきよりは、複雑で大きな魔法式が現れる。

 それでも難易度で言えば、因数分解程度ね。

 お陰で、この魔道具の凄さが分かった。


 『こいつを動かすには、お前さんが一万人ぐらい必要かもな。この世界に、お前さんと同等の魔法使いが一万人もいるとは思えないが』

 「なら、実質的に動かないじゃない」

 『動かんな』

 「それって、意味が無いんじゃ」

 『だから大馬鹿野郎って言ったんだ。魔法式は天才的だけどな』

 「・・・なにか、ヒントになりそうなものは無いの」

 『そう言われてもな・・・』


 青いクラゲが魔法式の間を飛び回る。


 『うーむ。今言えるのは、この魔道具を動かすためには、膨大な魔力が必要な事。複数の作業が同時に行えること。動いた形跡があるってことぐらいだな。ってか一部は今でも動いている』

 「なんだ、動くんじゃない」

 『ああ、どうやったかまでは分からんがね。これを作った奴は、お前さんの一万倍の魔力があったのかもな』

 「団長のお父さんが作ったんでしょ。団長の師匠なんだから魔法の力も桁違いだったんじゃない? 」

 『否定はしないがその場合でも、そいつは人の形はしていないと思うぞ。人の器が魔力に耐えられないだろうからな』

 「耐えられないとどうなるの? 」

 『爆発する』

 「えっ、噓でしょ」

 『かもしれない。そんな人間いないからな。正確なところは分からん』

 「憶測ですか。でもそうなるとこれを作った人は、人間を超越した神様みたいな感じになるんじゃ」

 『そう分類してもいいだろうな』

 「はぁー」


 神様か。

 団長の師匠は私と同じ日本人と思っていたけど、違うのかもしれない。

 困ったわね。



                続く

誤字報告、いつもありがとうございます。助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 構成がしっかり立てられたいるところです。どういう町か輪郭がはっきりしていると感じます。描写も繊細。 [気になる点] ファンタジー展開が今まで以上になっていきそうな予感がします。 [一言]…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ