設定資料収集「異世界チート知識で領地経営しましょう」 小ネタ集
本編ではありません。
今回は小ネタ集をしてみようと思います。
なんとなくわかるネタから、説明されないと絶対に分かんねぇネタまで盛りだくさん。
今後のネタバレにならない程度に、お送りしていきたいと思います。
設定、創作方法、本作のテーマ等々、何でもありの番外編。始まり始まり。
・ロンダー王国
この物語の舞台となる国です。
古い歴史と広大な領土を保持している超大国として描いております。
モデルは古代ローマ帝国。
( ̄▽ ̄)//いやー自分、塩野七生先生の大ファンでして、先生の著作はほぼ全て読破いたしております。それこそ「サイレント・マイノリティー」から「愛の年代記」に至るまでほぼ全てです。
中でもお気に入りは「ローマ人の物語」
学生時代、何回読み返したか分かりません。今でもたまに開きます。
ロンダー王国は、共和制に移行しなかったローマ王国が、版図を拡大したらこうなったんじゃないかなという設定で構成されております。
「ローマ人の物語」をお読みになられた方ですと一目瞭然ですが、本作では「軍制」「奴隷制度」「裁判制度」「パトローネスとクリエンティスの関係」に至るまで、古代ローマからそのまま拝借しております。
若干のアレンジは加わっておりますが、ほぼまんまです。
完成度の高さでは及んではいませんけど。
・ニースの村。城塞都市オルレアーノ。港町フレジュス。寂れた騎士領モンテューニュ
全てフランスに実在する都市や町です。
オルレアーノはオレルアンをもじっただけですし、他はまんまです。グーグルマップを見ながら良さげな町の名前を探した結果です。
因みにニースが含まれるレキテーヌ地方は、フランスのアキテーヌ地方からの流用です。場所は違うんですけどね。
・王都エンデュミオン
モデルは当然、「永遠の都」ローマです。
ただ、ローマは内陸に位置しておりますが、エンデュミオンは海沿いの都市ですね。
ですからローマの外港オステアとローマを、足して二で割ったような都市になりました。違いはこれぐらいかな。
人口が50~60万人ぐらいのイメージの都市です。
この都市が王家の権力の源です。
「エンデュミオン」は、なんかカッコよさそうだから、そう名付けました。特に意味はありません。
いわゆる一つの厨二病。
本作で私が付けた、唯一のオリジナルの都市名です。
・ドルン河
ロンダー王国と北方民の勢力圏を規定する河です。
ローマ帝国の国境線。ライン河がモデルですね。
川幅や流れ方もほぼ一緒。
しっかしエリックって、夜のライン河を泳いで渡ったのか。
すげーな。Σ( ̄□ ̄|||)
・メルキア地方
むせる。
だからメルキアは蒸すんですよねー。
( ̄▽ ̄)//そんだけです。
・蒐
ロンダー王国で、毎年秋に行われる軍事訓練。王国各地で行われます。
「蒐」は、古代中国「西周時代」に、各国で実際に行われた軍事演習です。
将軍などの任命も、この時に行われていたようです。
だからエリックは蒐で昇進を伝えられたんですね。
・「はあ、まあ、リンゴの皮をむくのには便利かな」
第72話「人夫集めとプギル」の回で、江梨香が発した言葉。
使えもしない短剣を、護身用としてエリックから手渡されたときに言いました。
これは、帝国海軍の士官が任官するときに、短刀を拝領するところからきています。
「軍艦で戦う海軍が短刀をもってどうするんだ」と言われたときに、機転が利く海軍士官が「リンゴの皮をむくときに使うのですよ」と返した故事があるそうな。
海軍士官のスマートネスを体現する話として、大好きなんですよね。
魔法使いの江梨香には不要なものとして描きました。
出典は、阿川弘之著「軍艦長門の生涯」から。
・叙任式での江梨香のファッション
純白の修道女の正装に、深紅のストールを羽織りました。
はい。日の丸ですね。
江梨香さんは、無意識にチョイスした結果です。
・男女雇用機会均等法
第二章のオープニングで、江梨香さんが尊重していた法律です。
異世界に飛ばされた彼女にとっては、守る必要が一切ない法律です。
しかし、彼女はこれを守ります。
図らずもこの行動は、第二章を通してのコンセプトになりましたね。
そんなつもりは一切ありませんでした。
この頃は、異世界に行ったとたん、法律どころか人間としての倫理感すら投げ捨てる移転者たちに対しての嫌味や皮肉として書きました。
( ̄▽ ̄)//「君らは現世の枷から放たれると、欲望のままに好き勝手行動すのかもしれんが、うちの江梨香さんは男女雇用機会均等法すら順守するぞ」ってね。
このような江梨香さんの一連の行動を、日本への執着と読み取った読者さんがいましたが流石です。
作品の読み込みが私より深い。素晴らしいです。
恥ずかしながら、言われるまで気が付きませんでした。
いまさら言うことでもありませんが、江梨香さんはこの世界に飛ばされたことを恨んでますからね。この世界に馴染んでしまうことを無意識下で拒否しています。
私としては納得の行動です。
前々から思うのですが、突如異世界に拉致されて、それを一切恨まずに、異世界に順応してしまう人間が現実世界におられるのであれば、一度お会いしてみたいものです。
「郷に入れば郷に従え」的なご感想もいただきましたが、好き好んで異世界に向かった人間ならいざ知らず、拉致被害者にその言葉は言えませんね。従う義理は微塵もないと思います。
なろうでは異世界を、現実世界で積もらせた鬱憤を晴らす場所として描かれているのかもしれませんが、私はロンダー王国を、そのような馬鹿な世界として作りたくはありませんでした。
異世界はユートピアでもパラダイスでもなく、別のリアルです。
これは本作の大きなテーマの一つでもあります。
話が脱線しましたが、異世界に来てまで男女雇用機会均等法を守っている女が、連座制なんて旧時代的で不条理なシステムを見過ごすはずもなく、現代の日本的正しさのため暴走いたしました。
このあたりの江梨香さんの行動理念の描写不足により、第二章は大荒れになりましたね。
描けていると思っておりましたが、文字通り思っていただけでした。大いなる反省点となりました。
・海賊騎士ベルトランとオヌール
モンテューニュ騎士領の元領主。
沖合を通る船を襲い、海賊騎士として恐れられる。後に討伐され死亡。
彼の元ネタは中世フランスに実在したとされる騎士、ベルトラン・ド・ボルンからきています。
この人も大変な問題児と言いますか、犯罪者と言いますか。
とにかく戦争大好き。略奪大好き。
その有様は叙事詩になる始末です。
オヌールは謎の言葉です。
エリックとロランの臣従礼の場面に登場しましたが、私も意味を知りません。
( ̄▽ ̄)..なら書くな。
オヌールが何かがわかりませんが、ベルトランがイギリス国王ヘンリー一世に臣従した時に、彼に衣服と土地とオヌールを与えたとあります。
もしかしたら称号の一種かもしれません。
・第140話「ユリアの一日」
本作は第二章から、それまでの「ハイファンタジー部門」から「文芸・SF・その他部門」に変更しました。
「ユリアの一日」は、本作がヒューマンドラマ部門へと、大きく舵を切った最初のお話です。
これ以降、主人公以外の登場人物にもスポットライトが当たるようになり、群像劇としての側面がより強調されるようになりました。
我ながら良い判断だったと思います。
いろんな方向からカメラを向けられるので、重層的な作品へと変化したと思います。私自身も、登場人物や世界観への理解も深まりました。
それまでも、チョイチョイやっていましたけど、セシリアとか将軍様とかの一部の人間のみの特別仕様でした。
この恩恵を一番受けたのはロジェ先生でしょうね。
第二章後半の主人公は、彼になっていましたから。
ロジェ先生から見た、現代日本人の異様さを描けたと思います。
・ロジェスト・アンバー
第二章の主人公。セシリアやアランが通う王立学園で、講師をしている青年です。
本業が講師ですので、弁護士業は頼まれたらやる感じです。
この人は炎上事件により、本作での存在感を高めましたね。
燃えなかったらここまでの活躍は無かったでしょう。
アランの兄弟を出したかったのもあります。
江梨香が作戦を立てて、エリックが金策して、ロジェ先生が実働したのが第二章でした。第二章が何とか乗り切れたのは彼のおかげです。
・ディクタトーレ
ロンダー王国における裁判で、弁護及び告発等を本人に成り代わって行う人のことです。
第二章では弁護人と訳しましたが、正しくは代理人です。
語源はラテン語の「ディクタトール」。独裁官と訳される役職から頂きました。
採用の理由は、響きがカッコいいから。
・マリエンヌ
第二章の悲劇のヒロイン。
元ネタはマリアンヌ。
フランスと自由の象徴です。ドラクロアの「民衆を率いる自由の女神」や、ニューヨークに立っている自由の女神はこの人です。
自由の象徴が、罪無く捕らわれているんですね。
「はぇー」と思ったそこの貴方。
騙されてはいけません。
これはただの偶然です。
私の中で、なんとなく浮かんできたからマリエンヌ。途中から本家のマリアンヌとごっちゃになって、何回名前を確認したことか。
・第181話「闇を照らす一筋の光」
この話は、槇原敬之の楽曲「明けない夜がくることはない」からインスピレーションを受けて書きました。
自分で言うのもなんですが、会心の出来栄えになったと思います。
それまで、ぼんやりとしていたマリエンヌの輪郭が、くっきりと浮かび上がりました。
・十人委員会
王都エンデュミオンの、治安と司法を司る機関です。ヘシオドス家の陰謀の捜査をしていました。
元ネタは、ヴェネツィア共和国の統治機構「十人委員会」から持ってきました。
別名「CDX」 Consiglio dei X
( ̄▽ ̄)//CIAみたいで、かっくいい。
本家は反乱や陰謀を取り締まるための組織としてスタートし、途中からは内閣みたいな存在になりました。
設立当初は、文字通り10人で構成されていたみたいですけど、後に増員されて15人~20人になったのは御愛嬌。
ヴェネツィアではCDXが家の戸口に立つと人生終了だと、恐れられていました。
こっちの十人委員会は、江梨香さんによってひどい目にあわされました。
・将軍様と若殿
将軍様の名前がユスティニアヌスで、若殿がフリードリヒ
もうお分かりかとは思いますが、東ローマ皇帝ユスティニアヌス一世と、神聖ローマ皇帝フリードリヒ二世から頂きました。
ユスティニアヌスは血みどろの陰謀戦を勝ち抜き、分裂したローマ帝国の再統合せしめ「大帝」と称された人物。
フリードリヒ二世は異教徒を一人も殺さず、外交交渉で聖地エルサレムを奪還し、「玉座についた最初の近代人」の称号を持ちます。
この偉大な歴史上の人物の名を冠している二人が無能なわけもなく。
エリックと江梨香は基本的に、既得権益を持つ人物に評価されることを目指しています。ですので上司が無能だと困ります。いい仕事をしても、適切に評価されなければ意味がありません。
私もとても困ります。
お話が進まないからです。
ですからこの二人はとても優秀な人物として構築しています。理想の上司像と言ってもいいでしょう。
優秀すぎて第二章では、一番おいしいところをかっさらっていきました。
先の三人が勝ち取った成果は、将軍様と若殿が美味しくいただきました。
ごっつぁんです。
・音楽祭で江梨香が歌った歌
音楽祭で一人残された江梨香は寂しさを紛らわせるために、傍に転がっていた楽器を手に取り歌います。
その時に口ずさんだのが、尾崎豊の「僕が僕であるために」です。
ギター好きのお父さんから教わりました。
音楽祭で江梨香に何かさせようと思い、YouTubeで音楽動画をあさっていた時に見つけました。
コード進行が比較的簡単そうですから、江梨香さんでも弾けそうかなって。
聞いたことのない方は一度聞いてみてください。江梨香さんの心情がより分かっていただけるのではないかと。
・ベニヤンクの鳳
このどこかの焼きそばみたいな名前の鳥ですが、鷺のことです。
音楽祭で江梨香に歌ってもらう楽曲の候補は二つ。
前述の尾崎豊の「僕が僕であるために」と、山下達郎の「ヘロン」
音楽祭のノリで言えば「ヘロン」かなと思いましたが、「ヘロン」はむずい。
ギターのコード進行もそうですが、とにかく歌うことが難しいと思い、「僕が僕であるために」を採用。ヘロンは形を変えての登場となりました。
こちらの方が夏の感じが出るのですけど。弾けそうな方を優先しました。
・江梨香はなぜギターが弾けるのか
音楽祭で突然ギターを弾き出した江梨香さん。
前々から設定かと言われればNOです。
よくある後付け設定です。音楽が好きな設定はありますが、楽器が弾けるかまでは設定していませんでした。
ですが、完全なる後付け設定でもありません。チョットしたギミックは存在します。
それではここのシーンに至る、私の思考回路をご紹介いたしましょう。
作戦として音楽祭を開催する。
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音楽祭で、江梨香に何かさせたい。
↓
そうだ。弦楽器を弾かせよう。笛やバイオリン、打楽器に比べて難易度が低そう。
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江梨香はギターの心得があることになるが、それはあり得るのか。
↓
あり得る。ギターは手ごろな楽器であるからだ。これがピアノを弾きだしたら完全におかしい。後付け感が、より強くなる。
↓
自分で覚えたのか。それは違うであろう。では、誰から教えてもらったのか。
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一番の可能性は、父親から教えてもらった。
↓
ならば父親にはギターの心得があるのか。
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ある。いや、ある可能性がある。
↓
なぜ可能性があるのか。
それはエリックの名前を聞いた時に、江梨香が最初に連想した人物が、エリック・クラプトンだったからである。
↓
エリック・クラプトンは江梨香の世代というよりも、父親世代のアーティストであろう。
↓
そして、エリック・クラプトンは高名なギターリストである。
↓
父親がクラプトンのファンであるのならば、過去にギター小僧だった可能性は十分存在する。
↓
江梨香の父親は、自身の趣味を我が子に教えた。
↓
故に江梨香はギターが弾ける。
以上です。
第5話「転移」で何気なく書いた一文を、第204話で回収したことになります。
因みに私はギターが弾けません。
私の創作活動って、ある種の連想ゲームの積み重ねみたいなものです。
これにて、私の中で江梨香さんがギターが弾ける設定が、無理なく呑み込めるようになり、人物描写にも奥行きができるようになりました。また、一度も登場したことのない江梨香さんの父親の輪郭が、おぼろげながら浮かび上がり、日本と異世界との地続き感も生まれたと思います。
・エリックの暴力性と協調性
エリックは周りに女性がいない場合に暴力性を発揮します。
メルキアでは結構、力ずくで物事を解決しようとしました。
彼は自力救済が常識の中世人ですから、普通にしていると暴力性が表層に現れます。
江梨香やセシリアがいる場合にのみ、ある種のストッパーが作動しますね。
エリックはいい男です。
江梨香さんが王都でやらかした時にも、エリックは文句は言いつつ協力してくれました。
戦闘が起きそうな危険地帯に、進んで金策旅行に出かけ大きな成果を上げました。
この点に関して、読者の方々から疑問を持たれなかったことは、嬉しい誤算でした。
エリックが江梨香を助けるのにも、一応理由があります。
江梨香との個人的友誼が最上位にはありますが、それだけではありません。
これはクリエンティスの考え方です。
同じ一門の者が助けを求めているのであれば、無条件で助けることが望ましいのがクリエンティスなのです。
実行できるかどうかはまた別の問題ではありますが、エリックは一顧だにせず実行しました。どう助けるかは悩みましたが、助けること自体は悩みませんでした。
実に頼りになるいい男です。
将軍や若殿がエリックに向ける信頼も、この一門への強い帰属意識に起因します。
江梨香の最大の幸運は、エリックに助けられたことでしょう。
・どうして完全勝利できなかったのか。
裁判編で江梨香たちは完全勝利を逃しました。名を捨てて実を取ったような終わり方です。
作者が言うことではありませんが、これはフィクションなのですから彼らが完全勝利してもいいはずです。
実力的には届かない感じもしますが、そこ辺りは作者の権力で何とでもなります。
ですが、結果は辛勝。マリエンヌの身柄の確保で終わりです。
ぶっちゃけると江梨香たちが完全勝利するプランもありました。円卓でマリエンヌの無罪を勝ち取って万歳で終了。
当初私は、このプランを彼らの間に放り込みました。しかしながら、びっくりするぐらい、誰も言葉を発しなかったのです。
私の創作方法は、登場人物たちをある状況に放り込んで、後は流れでお願いします。なのですが、完全勝利だと、誰一人、実のある言葉を発しませんでした。
ロジェ先生と江梨香が少し話した程度で、ストーリーに仕立て上げるまでは届きませんでした。
これはどうしたものかと、試しに敗北エンドを放り込んでやると、皆が一斉に口を開きました。
私以上に彼ら自身が、完全勝利を信じていませんでしたね。
これは、大いなる驚きでした。
そうか内心では、勝利を信じていなかったのかと。作者としては完全勝利もあり得ると思っとりました。
たとえ作者であっても、作品の全てをコントロールできるわけではないということですね。
本作は良くも悪くも偶然の産物でもあります。
これまで蒔いた伏線たちが、今後どのような形で芽吹くかは私も分からないのです。逆に完全に作品をコントロールしている作者っているのでしょうか。
いないような気がしますね。
今回はここまでといたしましょう。
続きは第三章で。




