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セシリア

 将軍の息子の誤解に突っ込むべきか迷っていると、唐突に後ろから声をかけられる。そこには一人の少女が立っていた。

 いや、少女ではなく美少女だ。

 小柄な身長に黄金に輝く髪をなびかせ透き通った青い瞳。


 「うわ。フランス人形みたい」


 お人形のような、という慣用句があるが、その模範解答のような少女を江莉香は初めて目の当たりにした。


 「肌。白っ。何食べたらそんな風になるんや」


 しかし、兄弟という割に似ていないわね。

 顔立ちには近いものがあるが肌、髪、瞳の色がすべて違う。

 少女はセシリアと名乗り優雅に一礼すると江莉香の腕を取って歩き出す。

 どう対処すればいいか分からずエリックに視線をやるが、彼も固まったままだ。

 柔らかい腕がしっかりと江莉香の腕を取りどんどん進んでいく。若干、連行されている感が否めないが逆らってもややこしくなるだけだ。

 応接室よりさらに豪華な小部屋に案内される。そこには草木の模様の描かれたソファーが設置されており、そこに座らされた。

 続いて男たちが入ってきて席に着く。


 「エリカ様はどちらのお国からいらしたのですか」


 隣に腰かけたセシリアの青い瞳が好奇心に輝いている。


 「えっと。日っ、ではなく。えっと。なんて言おう」


 ここで日本というと神々の国と訳されてしまい、ただの痛い奴になってしまう。


 「そうやな。えっとですね。ジパングから来ました」


 これなら嘘でもないし、神々の国でもないだろう。


 「まぁ。黄金の国ジパングからいらしたの」


 はい。アウト。

 セシリアの瞳がさらに輝く。

 余計にややこしくなってしまいました。ってかこっちにもジパングあるの? やっぱりタイムスリップしたのかしら。


 「ハッハッハ。なかなか冗談の面白い人だ。セシリア。ジパングはおとぎ話の国だぞ」


 若殿が声を上げて笑う。

 そう。フィクションよ。おとぎ話よ。そういう事にして。


 「そうなのですか。でも現にここにいらっしゃいます。エリカ様。ジパングは家や道まで黄金で出来ていると聞きましたが本当ですか」


 んな訳ねぇ。


 「そうですね」


 えっと、どうしよう。確かに家の近所にその話の元ネタになったであろう寺というか別荘が建っているけど、あれ一件だけだし。特殊な例外を普通みたいに言うのはどうかと。


 「そんなことありません。私の家は木と粘土で出来ていましたよ」


 正しくは化学合成素材だけど、それは言っても仕方ない。


 「そうなのですか。残念です」

 「エリカ嬢との話はそれぐらいにしてくれ。今はエリックの話を聞く時だからな」

 「そうでしたわね。エリック。こんな素敵な方とどこで知り合ったの。教えて頂戴」


 セシリアは江莉香の腕を取ったままエリックに向き直った。


 「それはですね」


 エリックはしどろもどろに説明をする。

 しまった。私の設定について打ち合わせをしておけばよかった。でも、エリックは馬鹿正直だから下手に話を作るとボロが出そうだ。ここは事実を話していくしかないわね。


 「まぁ。行き倒れてしまわれたのですね。それは大変でしたね」

 「はい」


 セシリアはエリカに絡ませていた腕をほどいて代りに手を取った。


 「エリック。騎士として立派な行いですよ」


 セシリアは高らかに宣言した。 


 「ありがとうございます。セシリアお嬢様」


 エリックが顔を真っ赤にして答えている。

 声の調子もいつもと全然違う。弾んでいるというか飛び跳ねているというか、バンジージャンプしているというか。グワングワンだ。

 わっかりやすいな。 

 エリックがセシリアに想いを寄せていることなど誰が見ても分るレベルだ。


 「男ってこういう女子には弱いわね。まぁ。可愛いのは認めるけど」


 江莉香は傍らの美少女に若干のやっかみを交えた視線を送る。

 そして、意外なことにセシリアもエリックに好意を寄せてそうなことだ。

 それは話し方や仕草、江莉香がエリックの結婚相手でないと理解してくれてからの当たりの優しさでもわかる。しかし、エリックはなぜ、こんな有力者のお嬢様に慕われているのだろう。彼は若くして村長を任されているとはいえ、一般市民に毛が生えた程度の地位というか身分らしいのだが、セシリアはどう見ても大貴族の令嬢。接点がわからん。

 だが、そんなことはいいのよ。いいぞエリックよくやった。逆玉狙いとは見直した。向上心があるとは思っていたが予想以上やわ。オネイサンは感動した。

 江莉香はニヤニヤしながら二人の会話を聞いた。今の江莉香は完全に近所のマダムと化していた。



 「ということがございました。エリカには魔法使いの資質があるのではないかと考えまして、王都の若殿にご相談に参ったのです」

 「ふむ。魔法使いの資質か。それが事実であれば重大事だな」


 フリードリヒは立ち上がり使用人に何かを言いつけた。


 「まぁまぁ。エリカ様」


 話を聞き終わるとセシリアが江莉香に抱き着いてきた。

 ちょっと何。柔らかい。いい匂い。それ何の香水。じゃなくて。私はそういう趣味はちょっと。


 「エリカ様も魔法使いですのね。お仲間が出来て、わたくし嬉しいです」


 うん。ちょっと待って。今この娘なんて言った。


 「こら。セシリア。お前何という事を」


 若殿がすごい剣幕で怒り出した。


 「よろしいではありませんか。兄さま。ここにはエリックとエリカ様しかいないのですから」

 「お前は当家の秘密を言いふらす気か」

 「と言うことは」


 エリックが恐る恐るセシリアを見ると、彼女は恥じらいながら。


 「わたくしも魔法が使えます。黙っていてごめんなさい」


 セシリアの申告に若殿はため息をつきエリックは石を飲んだみたいに固まった。

 なんだ。魔法使いって意外にたくさんいるのね。



 「セシリアお嬢様が魔法使い」


 エリックは自分の耳を疑った。

 幼いころより知っているつもりだったセシリアが魔法使い。エリックにとって地面が揺れるほどの衝撃であった。


 「エリック。怒っていますか。黙っていたことを」


 心配そうにセシリアがエリックの顔を窺う。


 「いえ。そんなことは、ただ驚いています」


 それだけしか言えない。

 セシリアは人差し指を突き出し何事かを唱える。歌うような美しい旋律だ。

 その旋律が終わると細く白い指先に炎が現れる。炎はしばらく形を変え揺らめくとやがて消えた。


 「十歳の夏にこの力に目覚めました」


 セシリアの瞳に自嘲ぎみの色が浮かんだ。


 「ああ。なるほど。それで」


 エリックは長年の疑問が解けた気がした。


 「はい。そういう訳です」


 セシリアは寂しそうに笑った。



 「若君。お呼びとのことですが」


 明らかに使用人とは違う身なりの良い男たちが入ってきた。


 「ああ。こちらニースの村に住んでいるエリカ嬢だ。彼女には魔法使いの資質があるらしい。至急手配をしてくれ」

 「なんと。直ちに」


 男たちは驚きを露わにエリカを見やると一礼して出ていく。


 「さて。エリカ嬢。あなたはしばらく当家の客人として滞在していただきたい」


 フリードリヒは江莉香を正面から見つめる。


 「えっと。それはどういう」


 江莉香はフリードリヒの強い視線に戸惑った。


 「我々としてはあなたの魔法の資質を確認したいのだ。魔法使いは貴重でな。その価値は同じ重さの黄金と同じかそれ以上だ」

 「そうなのですか」


 黄金と同じ価値と言われて喜んでいいのか、売り物じゃないと怒ればいいのか微妙だが、たぶん褒めてくれている。


 「エリックから何も聞いておられないのですか」

 「はい」


 魔法が珍しいことだけは聞いている。私の世界では珍しいどころの騒ぎではないけれど。


 「そうですか。エリック。貴様なぜ大事なことを伝えない」

 「申し訳ございません。若殿。なにぶん私も魔法を見たことが無く」


 若殿の言葉にエリックは小さくなる。


 「それでも、事の重大さは理解しておろうが」

 「兄さま。エリックを責めないでくださいまし。エリックも魔法の重大さを理解しているからこそ、お父様ではなく王都の兄さまの所を訪ねたのです。そうですわね。エリック」

 「はい。魔法使いは王都に集まると聞いていたので」

 「ほら。ご覧なさい」

 「わかった。エリックよくやってくれた。お前も当家に滞在することを許そう。エリカ嬢の護衛を命ずる。よいな」

 「はっ。承りました」


 こうしてセンプローズの客人になった。


                         続く 


わーい。やっとセシリアの事をがっつり書けた。嬉しいな。



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