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ご挨拶

 江莉香は一連のやり取りに腹を立てていた。


 せっかく友好的にお話ししようと思っていたのに、どう見てもそんな感じじゃない。

 エリックとアラン様が、王国の言葉を話せる偉そうな人と、喧嘩腰の話を続けている。

 弓を片手におじさんたちが出てきた時は、悲鳴が出そうになったけど、よく考えたら、ここで私たちを殺しても、この人たちに何の得も無いのよね。

 一旦落ち着こう。

 今は、お互いに見栄の張り合いをしてるのかな。

 とにかく、弓矢でこちらを狙うのはやめてほしい。間違って矢が飛んで来たらどうするのよ。

 なにより、招かれざると言えどもお客さんに失礼やろ。

 腹を立てているのは私だけではなく、隣に立つコルネリアも同じみたい。

 杖をドカッと地面に突き刺して、小声でルーンを唱えだした。

 これは、ドカンと魔法をぶっぱなすのかなと思ったけど、違うみたい。私たちを中心に魔力の渦が出来上がる。多分だけど、矢が飛んで来たら魔法ではじき返すつもりなのね。

 頼りになるわ。

 よし。ボーっと突っ立っていてもしょうがない。守りはコルネリアがやってくれるなら、私が突撃しよう。

 丁度、アラン様との言い合いで、細マッチョなイケメンお兄さんが力を見せろと言ったので、乗っかろう。

 決闘してもエリックとアラン様が負けるとは思わないけど、先方にはこっちには魔法使いが二人いることを理解してもらわないとね。


 「力? 力だったら、何でもいいですか」


 イケメンお兄さんが、なんだこいつという顔をしたけど、話し合いは求めてらっしゃらないようだから、手っ取り早く力を見せよう。


 江莉香は左腕を、建物の横に積み上げられた俵山に向けた。


 この俵山を竜巻で吹き飛ばそう。これなら誰も怪我しないし、私の力も分かってもらえるでしょ。

 右手を腕輪に押し当て、念じる。


 『風よ。大いなる大気の流れよ。吹き荒れよ』


 今まで一番のレスポンスが返ってきた。

 これならいける。


 江莉香は左腕から魔力を俵山に向かって発現させた。

 ゼロコンマの短時間で高さ10メートルはあろうかと言う竜巻が、轟音と共に出現し、一気に俵山に襲い掛かり吹き飛ばした。

 この間、僅かに3秒。

 空高く巻き上げられた藁束は、散々に飛び散り城塞中に降り注いだ。

 江莉香とコルネリア以外は大混乱に陥る。

 羊たちが一斉に逃げまどい、人々は悲鳴と共に建物の中に飛び込み藁の雨を避ける。エリックやアランも体勢をかがめて空を仰いだ。


 いきなり、竜巻をぶっ放したんだから、そりゃそうよね。でも、分かったでしょ。私たちの力。だから仲良くしましょう。


 「馬鹿、やめろ。何考えているんだ」


 エリックが抗議の声を上げる。

 酷い、初めて馬鹿って言われた。問題ないわよ。ただの藁束なんだから。それに、もう、終わったし。


 周りを囲んでいた北方民たちは、降りしきる藁束の雨の中、蜘蛛の子を散らすように逃げ去る。建物から出てきた指導者たちと、隊長の女の子は流石に踏みとどまっているけど、みんな表情がこわばっていた。

 動揺する城塞で、北方民の中で一番早く態勢を立て直したクロードウィグが、指導者達に何かを伝えると、暫く北方民同士のやり取りが続いた。

 その間に頭に降りかかる藁を払いながらエリックが抗議に来た。


 「いきなり、ぶっ放す奴があるか。せめて、相談してからにしてくれ」

 「ごめんなさい。魔法使いがいることを手っ取り早く知ってもらおうと思って」

 「向こうが怒って襲い掛かってきたら、どうするつもりだったんだ」

 「怒らないわよ。弱い人は相手にしないって言ってるんだから、力を見せない方が危険よ」

  

 言い合いをしていると、指導者たちは階段を下り、同じ地面に立つ。先ほどまでの傲慢な印象は影をひそめ、皆神妙な面持ちだ。


 「名前を聞かせてもらえるだろうか」


 先頭の細身のイケメンが口を開いた。


 「私? 」


 自分の胸に右手の人差し指を当てた。


 「ああ」

 「私は窪塚です」

 「クホツカ」


 微妙にニュアンスが違う。濁点が連続するのは言いにくいのかな。


 「ええ、窪塚、窪塚江莉香。言いにくかったら江莉香でいいですよ」

 「うむ。エリカ。私はこの氏長(うじおさ)の後見をしている。トリスタン・ブロウだ」

 

 トリスタン? 何と言うか北方人の名前にしては、少しカジュアルな感じがするわね。円卓の騎士に居そう。


 「こんにちは。セニョール・トリスタン。お話聞いてくれますか」

 「いいでしょう」


 トリスタンが、建物の中に(いざな)う。

 ほら、やっぱり、この方が手っ取り早かったでしょ。



 案内された建物は天守閣みたいな構造で、一階は石壁に囲まれ薄暗いが、梯子みたいな階段を上り最上階に至ると、四方の壁は大きく開き日の光が差し込んでいた。その一つからはアマヌの白い岸壁がよく見える。

 江莉香が景色に釣られて近づくと、外には欄干が広がっていた。


 「へぇ、いい景色ね・・・エリック。ほら見て、あれ、騎士団の人たちじゃない? 」


 眼下に小さく人馬の集団が見えた。ここからは川沿いの道がよく見える。


 「本当だ。この櫓から丸見えだったのか。凄いな」

 

 エリックがきょろきょろと周りを見回した。


 「メイガリオーネ・エリカ。こちらへどうぞ」

 

 トリスタンが、どこかで聞いたことのある敬称らしきものを付けて席に案内した。

 北方民は椅子を使わないらしく、皆、板の間にそのまま座る。

 上座と思われる席は空白で、両サイドに指導者の人が分かれて座り、トリスタンさんが左手の上座に座る。

 大河ドラマで見たことある並び方だ。私たち王国側はその中間に座らされる。

 板の間に正座するのも久しぶりね。座布団とかないかな。長時間の正座には自信が無いのよね。

 この使節の代表はエリックとアラン様だから、二人の後ろに座ると変な顔をされた。


 「そのような後ろではなく前へ」

 「いえ、私は付き添いの下っ端ですからここでいいです」

 「下っ端? メイガリオーネの貴方が? 」

 「はい。ええっと。御紹介しますね。私たちの代表は、こちらのお二人。エリック・シンクレアとアラン・トリエステル卿。どちらもセンプローズ一門の騎士です。だから、二人の方が偉いですよ」


 二人の肩に手を掛けて紹介した。その後振り返りもう一人を紹介した。


 「それと、私の師匠のコルネリア様。この人も魔法使いです」

 

 江莉香の言葉に、北方人達はさらに騒めいた。


 「メイガリオーネの師匠」

 「はい。私より格段に上の魔法使いです。お見せいたしましょうか」

 「いや、必要ない」


 トリスタンさんは右手を出して制止する。この中で魔法をぶっ放されると思ったらしい。脅しは充分のようだ。これならお話合いもスムーズに進むわね。

 安心して一息入れると、唐突に足音が近づき、頭上から声が降ってきた。


 「狂ったメイガリオーネが何用だ」


 顔を上げると、すぐ傍に赤毛の女の子が立っていた。

 ここまで案内してくれた子よね。なんか怒ってらっしゃる。そりゃそうか。て言うか言葉通じはったんか。


 「おひい様。落ち着いてください」

 「黙れトリスタン。我が城内を荒らすなど、許さんぞ」

 「ごめんなさい。散らばった藁は私が回収するから許して」


 確かに、ちょっとやり過ぎたかもしれない。ここは、素直に謝ろう。


 「また、(まじな)いでか」


 更に、お怒りのご様子。


 「違います。私は吹っ飛ばすしか出来ないから手で拾い集めます」

 「我等を吹き飛ばすと申すか」

 「ええっ、どうしてそんな解釈になるの」

 「おひい様。とにかくお座りください」

 

 トリスタンの執り成しに赤毛の少女は「ふん」と鼻を鳴らして、一番奥の上座、即ち、空席だったお殿様の席に乱暴に座り込んだ。

 えっ? てことはこの()がボスなの?

 今度は王国側が驚く番だった。そんな中、体勢を立て直したアランが挨拶をする。


 「トリスタン殿。ご紹介いただけるだろうか」

 「いいだろう。このお方は我等が主、アマヌの岩壁の守護者。ジュリエット・アマヌ様だ」


 ジュ、ジュリエット? ほんまに? 偏見だけど物凄いキラキラネーム。

 その名を聞いて再び赤毛の少女に目を向ける。

 そこには、男のように乱雑な座り方をする赤毛が一人。

 とてもではないが、一国一城のお姫様の姿ではない。

 もう、冗談がきついわ。失礼ながら完全に名前負けしてはる。どちらかというとジュリアスって感じ。エリックが男の子に間違えるのも仕方ないかも。

 江莉香は微妙な半笑いの表情をした。



                  続く

江莉香さん大暴走の巻。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 興味深く読んでます。 [気になる点] エリカはそういうキャラ、というだけだとおもうのですが、あまりにも平和ボケしすぎているようにみえます。 本人のみならともかく他のキャラにエリカの安全基…
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