『架空脱獄者の憂鬱思想』
『架空脱獄者の憂鬱思想』
㈠
何かに反発するのは、自己内の衝動がそうさせるのであって、一概に人格だとは言えまい。
㈡
寧ろ、その瞬間の初期衝動が、ずっと続いて、或る魂になって、獄中の状態になる。
㈢
ただ、覚えておきたいのは、誰も獄中になど居たくないということであって、換言すれば、架空の獄中のことになる。
㈣
すると、架空の獄中など、現実ではないので、小説でも描いて、架空脱獄者になれば、うまく運ぶのだ。
㈤
しかし、人間には記憶力というものがあるから、自分は、かつては獄中に居たという憂鬱が、襲ってくる。
㈥
結句、しかし、その様なことは考えなくても、小説化すれば、浄化され、架空脱獄者の憂鬱は消失するし、それが、一つの思想になる訳である。