蓮の花
夫と二人暮しをしていた頃、コーポの一階で、睡蓮鉢を何個も買ってきて、金魚やヒメダカを養っていた。
日当たりが良いし、土地が力を持っているような錯覚さえいだいてしまうほど生命力にみちあふれていた。
金魚はごろりとした大きさまで育ち上がり、巨大なヒレをゆらゆら揺らし、私はうっとりとそれを見つめてエサをあげて水換えをして、太陽光が水面にきらきらしていた。
「睡蓮とヒメダカのセット」を購入したら、睡蓮は全く育たず、代わりに6匹だったヒメダカが大量に発生した。卵がついた水草を別の睡蓮鉢に移して親メダカに食べられないようにと繰り返していたら、ヒメダカ帝国が成り立ってしまった。
なぜか、奥底から湧き上がってくるように生まれてくるイメージ。
統合失調症の幻覚が起こったとき、自分が生き延びるために何を犠牲にするか?と問われた。なにも。何も亡くしたくない。
親も兄弟も、夫も誰も犠牲にしたくない。
では、セキセイインコは?
だめ!
ウズラは?
だめ!
ミドリフグは?
だめ!
それならば何を差し出す?
……。メダカなら。
今から生まれてくるヒメダカならもう私には把握できないから、それならいい。
それでも心が痛む。なぜそんな取引を持ちかけられるのか?ただ試されているだけなのか?
それは、十年以上経った今でもわからない。
睡蓮はなぜ咲かなかったのだろう?
睡蓮と蓮の花はよく似ている。
蓮の花が枯れた後の風貌から涅槃の花だと言われているらしいけれど、統合失調症が霊現象だとも言われているらしいけれど、どこか別の世界を垣間見たのだった。