091 2人の魔族
「ジー様、仕掛けますので援護をお願いします」
「ゲルト、油断はするなよ、あの鬼はどの様な力を持っているか判らない」
ゲルトと呼ばれた魔族が俺に向かって槍を構えた、あの槍には見覚えがあるぞ。
「鬼よ!我が名はゲルト!お前を倒す男の名だ!行くぞ!」
ゲルトが槍を構えて猛スピードで突撃して来た、俺は迎撃する為にタイミングを合わせサクヤを振るうが鈍い音を響かせゲルトの突撃に弾かれる、突撃の狙いが逸らされたゲルトは再び空中へと舞い戻って行った。
「クソ、やっぱりその槍は『流星の槍』か、また面倒な物を持ち出しやがって」
「ほう、この槍を知っているのか?」
流星の槍は元々VRMMOに実装されていた装備だ、武器のスキルは装備者の速度と防御力に補正を与えてからの突撃技『流星撃』、突撃中にしか補正が掛からない分その効果は高い。
「あぁ、昔散々相手した武器だからな、弱点もしっかり把握済みだ、真空波!」
流星撃は連続して撃てないスキルだ、再度使用するまでに10秒程の時間が必要になる、今のゲルトは能力値に補正の掛かっていない状態だろう、真空波を防げない。
「させるか!行け!死霊共よ!ゲルトを守るのだ!」
俺が真空波を放つと同時にもう1人の魔族、ジーが人の背丈程もある杖を振るう、その瞬間ゲルトの前に黒い雲の様なモヤが現れた、真空波が黒い雲にぶつかり相殺される。
「2人を相手にしている事を忘れていたのか?今度は私の攻撃だ、死霊共よ!あの者をお前達の仲間にしてやるがいい!」
ジーが再び杖を振るうと先程の黒い雲が向かってくる、危険を感じその場を飛びのくと黒い雲は水面へぶつかり爆発した、中々の威力だ。
「何だ、これは…死霊魔術!?アイツが持っている杖は『ネクロマンサーの杖』か!?」
「この杖もゲルトの槍と同様人間共から奪った武具だ、人の造った物にしては中々に趣味が良い、私好みだ」
「元の世界じゃ使い趣味が悪いと評判の武器だったんだがな、お前とは一生分かり合えそうに無い」
ネクロマンサーの杖は周囲で戦闘不能になったプレイヤーの数に応じて使える魔術が強力になる少し変則的な武器だった筈だ、ここは海の上、近くで命を落とした人間など居ないと思うのだが…まさか!?
「くっくっく、気づいた様だな、お前の仲間が我が兵を屠る度にこの杖は力を増す、実戦で使うのは初めてだが素晴らしい力だ、この前の港の襲撃に私も付いて行けば良かった」
『サクヤ…いや…何でも無い、そっちの調子はどうだ?』
『どうしました?こっちは順調ですよ、ユイトさんの方はもう戦闘中ですか?』
『あぁ、少しサクヤ達が気になっただけだ、突然すまなかったな、引き続き雑魚を頼む』
サクヤに敵を殲滅するペースを落とす様頼もうと思ったが寸前で思いとどまった、ネクロマンサーの杖の話をすればサクヤ達は戦い難くなるだろう、皆の足を引っ張る訳にはいかない。




