087 孤独な戦士
ザラキマクに街への連絡をブロスタさんへとお願いした俺達は海竜様の頭に乗り海を進む。
「うわっ!とんでもないスピードね、油断してると振り落とされるわ」
テミスが片手で髪を抑えながら俺の服を掴む、海竜様のスピードは船や馬車の比ではない、猛烈な勢いで人影へと近づいている。
「すまぬな、気がせいておった、少し速度を落とそう」
「そうしてもらえると助かります、ところで海竜様はあの人影の正体に心当たりがあるんですか?」
「恐らくしばらく前にこの近海に現れた魔の者の仕業だろう、奴らは膨大な数のモンスターを人の子の街へと差し向けた、幾度となく我が滅したがキリが無いのだ、物量に押され傷を負った我はしばらくの間眠りについていたのだが…」
海竜様の身体をよく見るとあちこちに傷を負っている、モンスターとの戦いの印だ。
「最近ザラキマクの街へモンスターの襲撃が相次いでいるのはそのせいだったんですね、奴ら海竜様が居ない隙を狙ったんだ」
「情けない話よ、あの様な者どもに遅れを取ってしまった…」
「そんな事はありません、ザラキマクの街が無事なのは海竜様が戦っていてくれたからです、この事を知ればきっと街の港も海竜様に感謝しますよ」
海竜様は人知れず街を狙うモンスターと一人で戦って来たのだろう、幾ら神様の命令だったとしても中々真似できる事では無い。
「海竜様、身体の方はもう大丈夫なんですか?見たところ傷が癒えて無い様ですが」
「万全とは言えぬ、…しかしあのバケモノを止めなければ人の子らの街は滅ぼされてしまうだろう、今までの敵とは桁違いの力を持っておる」
「えぇ、この距離だと俺にもアイツの力を感じる事ができます…」
「あのデカブツは我に任せて貰おう、其方には彼奴を作り出したであろう魔の者らの相手を頼みたい」
「魔の者…魔族ですか?」
以前戦った女魔族の事を思い出す、満身創痍での戦いだったとは言え侮れない強さだった、しかも今回は他にもあの巨大なモンスターまでいる、一筋縄ではいかなさそうだ。
「然り、街を狙う魔の者は2人いる、恐らく2人ともあの巨人と共に行動しているだろう」
「魔族が2人ですか、中々厳しい戦いになりそうです」
「奴らは今まで直接我に戦いを挑んで来た事は無かった、大量のモンスターを従えていたのだ、今回も奴らの他にモンスターがいるだろう、我が万全なら物の数ではないのだが…」
魔族が2人に巨大なモンスター、更にはモンスターの軍勢か、最初から鬼神化を使い短期決戦を挑もうとしたが作戦を変えた方がいいな、魔族を倒せても海上で鬼神化が解ければモンスター達に嬲り殺しにされてしまう。
「そうだ、忘れるところだった、其方の持ち物を一つ我が預かっておる、戦いの前に返しておこう」
そう言うと海竜様の口から淡い光の球が吐き出され俺の元へと吸い寄せられた。




