084 清純なる乙女号
「風が気持ちいいですね、まるで空を飛んでいる見たいです」
「天気も良いし絶好の船旅日和だな、船に乗るなんていつ以来だろう、なんだかワクワクしてくるよ」
「ほっほ、こいつは中々素直な良い船じゃわい、儂の思いのままに動いてくれる、流石はクラブ様の『清純なる乙女号』じゃ」
上機嫌なブロスタさんが船の舵を切る、俺達はザラキマクの沖を竜神岩に向けて進んでいた。
「ありがとうございます、ブロスタさんが協力してくれなかったら俺達は竜神岩に向かう事すら出来ませんでした」
「見直した、ただエロいだけの爺さんじゃ無かった」
「なんの見返りもなしに船の操縦をしてくれるなんて思ってなかったわ、てっきりお尻を触らせろとか言ってくるものだとばかり…誤解してたわ、ごめんなさいねブロスタさん」
「ザラキマクの救世主のお願いじゃからの、儂も海竜様に恩がある、もし出会えたらあの時のお礼を伝えたいんじゃ」
ブロスタさんはクラブさんの船『清純なる乙女号』に昔の船乗り仲間達を集め俺達の願いを聞いてくれた、竜神岩まではザラキマクの港から半日程かかる。
「それに死ぬ前にもう一度だけ此奴らと船を動かしたいと思っておった、皆歳を取って引退したが腕は一流じゃ、昔を思い出すのぉ…」
「なんじゃ船長?最後の航海の様な事を言いおって、今回救世主さん達の呼びかけで皆が集まったのも何かの縁、これからもたまには集まって船を動かそうや、やはり丘に上がりっ放しだと老け込んでしまう、儂らは死ぬまで船乗りじゃ」
ブロスタさんの仲間の1人が話し掛けて来た、年齢はブロスタさんより少し若いぐらいだろうか、筋骨隆々でとても老人の身体には見えない…マッチョ…嫌な事を思い出した。
「本当に皆さん見事な手際ですね、船の事は素人ですが動きにムダが無い事はわかります」
「嬉しい事を言ってくれるのぅ、どれユイト、少し舵を握ってみるか?心配はいらん、儂の言う通りに動かすんじゃ」
ブロスタさんが俺に操舵輪握る様に促す、恐る恐る握ってみるとズシリときた、物理的にでは無く精神的にだ、舵の動かし方一つで乗員全てを危険に晒すかも知れない責任の重さだ。
「なんと云うか…重い…ですね」
「分かるか?この重さは乗組員全ての命の重さじゃ、少し触っただけでそれに気づくとは大したもんじゃ、お主には人を導く素質がある」
「どうなんでしょう?あまり自覚はありませんが…、舵はお返ししますね、やっぱり俺には重すぎます」
ブロスタさんに舵を返す、人を導く素質か、今でもサクヤ達には色々迷惑を掛けていると思う、旅のリーダーとしてもう少し自覚を持たないとな。
「おーい!誰かこっち来て望遠鏡を覗いてくれんか?変なモンが見えるんじゃが歳のせいで良くわからん、代わりに確認してくれ」
マストに上がっていた1人が甲板の俺達に呼びかける、俺は望遠鏡を覗くためにマストから降ろされた縄梯子を昇った。




