081 海の漢達
「おーい!こっちに人を寄越してくれ!荷下ろし場がパンパンだ!積荷が降ろせねぇ!」
「分かった、手の空いているヤツは荷下ろし場を手伝いに行ってくれ」
モンスターの襲撃を退けた数日後、ザラキマクの港は海を漂うモンスターの死骸を回収する船乗りでごった返していた。
「はえ~、凄い熱気ですね、とても近寄れそうにありません」
「噂を耳にした商人達も続々とザラキマクにやってきてるそうよ、宿の親父さんが朝から忙しそうにしていたわ」
「あの数のモンスターの死骸だからな、魔石の売買でどれだけの金が動くのか想像も出来ない」
クラブさんに呼び出された俺達は港の近くにある港湾管理局を探していた、誰かに場所を訪ねようとしたが皆殺気立っている、正に鉄火場だ、こんな状態で強面の海の男達に声を掛けるのは躊躇してしまう。
「おぅ、兄ちゃん達悪いがちょっと道を開けてくんな…って英雄さんじゃねぇか!おーい!皆!英雄さん達が俺達の仕事っぷりを見学に来てくれたぞー!」
「マジかよ!サクヤちゃん!俺の上腕二頭筋にサインしてくれ!」
「俺はテミスちゃんに大胸筋にサインしてもらうんだ!ハートマークも描いてくれ!」
「アイギスちゃん!俺は僧帽筋だ!『大好きなお兄ちゃんへ』って頼む!」
モンスターの襲撃を退けて以来サクヤ達3人は街のアイドルの様な扱いを受けている、屈強な海の男達が3人へ殺到した。
「ちょ…描きますから!サインしますから並んで下さい!ユイトさん!何ニヤニヤしながら眺めてるんですか!助けて下さい!」
「いや、人気者は大変だなぁと思ってさ、俺はその辺で休憩してるから…!?」
何者かが背後から俺の肩を叩く、振り向くとマッチョなお兄さん達が白い歯を見せながらポージングしていた、何故かお揃いの刺繍が入った海パンを履いている、あの刺繍は…俺の顔だ。
「ユイトのアニキ、その…俺の大腿四頭筋にサインをお願いします!」
「へっ?いや…大腿四頭筋って…?やめて!こっち来ないで!いゃあああああ!!!」
肌色が押し寄せくる、俺はその後しばらくの間記憶を失った、脳が精神の崩壊を防ぐために機能したのだろう、人体って凄いね。
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「「「ありがとうございやした!!!」」」
お兄さん達が俺に手を振りながら仕事へと戻って行く、俺は光が消えた瞳で手を振り返す。
「ふぅ、やっと終わったわね…ユイト!?どうしたの!?何があったのよ!?」
同じくサイン責めから解放された3人が俺の異変に気付き駆け寄って来た。
「肌色…怖い…マッチョ…怖い…」
「主さまが壊れた…大体何が有ったか想像できる、したくないけど…」
「ユイトさん…可哀想に…」




