077 真の貴族
クラブ様と呼ばれた身なりのいい男は騎士団員や冒険者達に指示を飛ばしていた、ブロスタさんの話にも出てきたザラキマクの領主だろうか。
「アイロンスティールの英雄?…そうか君達が噂になっている旅人のユイト殿一行か、この街に来ていると云う話は聞いていたが…」
「はい、俺達もモンスターの迎撃に参加させてもらえませんでしょうか?きっと力になれると思います」
「ありがたい申し出だとは思う…しかし好意に甘えても良いのだろうか、この場に居る騎士団は私も含め命を失う覚悟が出来ている者だと思っている、この街に来て日の浅い君達が命を賭ける事はないんだよ」
「傲慢に思われるかも知れませんが俺達の力は強力な物だと思ってます、俺達がこの戦いに参加する事で守れる命がある筈です、それに…あんなモンスター達に殺されるつもりは毛頭ありません」
クラブ様は真っ直ぐに俺達の姿を見つめる、しばらくすると何かを決意した様に口を開いた。
「…判った、申し遅れたが私の名はクラブ=バルメス=タルマイト、こんなでもこの街を任されている、街を守る為に君達の力を貸して欲しい、この通りだ」
「頭を上げて下さい、その…マズいんじゃないですか?こんな大勢の見ている所で領主様が平民に頭を下げるなんて」
深々と頭を下げるクラブ様、この世界に来て唯一知っている貴族がビズミスだった為あまり貴族に対して良い印象が無かった、どうやらこの人はアイツとは根本的に違う人種な様だ。
「君達は善意でこの街の為に力を貸してくれようとしている、街の代表たる人間が感謝の気持ちや敬意を示すのは自然な事だと思うが?」
「領主様…俺は貴族って存在を勘違いしていた様です、必ず街を守ってみせます、俺達は何処の守りに付きましょうか?」
「そうだな…君達は魔法部隊の護衛及び援護をお願いしたい、人数はそんなにいない部隊だがモンスターに対する要となる部隊だ、私が直接指揮を取る」
「領主様自ら前線に立つんですか!?危険だと思いますが…」
「私も魔法が使えるんで魔法使いの戦い方については騎士団の誰よりも熟知しているつもりだ、それにこの場に居る者は身分や能力など関係無い、皆等しく勇敢な戦士だ」
不思議な人だ、人を惹きつける魅力がある、こんな人を本物の貴族って云うんだろうな。
「わかりました、領主様の指揮に従います、俺達の力を領主様の思うままに使って下さい」
「言っただろう?君達と私に身分の差など存在しない、様なんて付けないでくれ、ユイト殿…いやユイトと呼ばせてくれ」
「クラブ…さん、一緒に戦いましょう、モンスターどもに街を好きにはさせません」
クラブさんと固く握手を交わす、その時1人の男が俺達の方へと駆け寄って来た。
「観測班より伝令に参りました、間も無くモンスターが港に到着します!」




