071 港街の生き字引
「ん~、この辺りの昔話ねぇ、私は他所からこの街に移ってきた人間だからちょっと解らないね、ごめんよ」
「いえいえ、もし何か面白い昔話でもあればと思っただけですから、ご馳走様でした、とても美味しかったです、また食べに来ます」
「ありがとうねお兄さん、ウチの海鮮スープパスタは領主様のお墨付きで自信作なんだよ、それにしても…そっちのお嬢ちゃんの食べっぷりは見ていて気持ち良かったね、10人前は食べてたんじゃないかい?」
図書館を出た俺達は近くにあった食堂で昼食を食べた、店の女将さんのオススメのスープパスタは海の幸がこれでもかと盛り込まれ酸味の効いたトマト味のスープと相性が良く大変美味しかった。
「もう食べられません…、幸せです、今日はお風呂に入って眠ってしまいたいです」
「もうサクヤったら、昼からは街を回って聞き込みをするって決めたじゃない、そんなに食べて歩けるのかしら?」
相変わらずサクヤの破壊力は凄まじく途中から周りにギャラリーが集まる程の食べっぷりだった。
「ははは、それだけ食べたら動けなくなるのも無理はないよ、お兄さん達は学者さんか何かかい?昔話や神話を知りたいだなんて珍しいね」
「ただの旅人ですよ、俺達が探している物がこの街にあるみたいなんですけど何かヒントになるかと思って調べてるんです」
「なんだか判らないけど大変そうだね…そうだ、もしかしたらブロスタ爺さんなら何か役に立ちそうな話を知ってるかも知れないね」
「ブロスタさんですか?良かったら話を聞いてみたいです、どんな方なんですか?」
「この街の生き字引みたいな人で昔はこの街1番の船乗りだったロクデナシの爺さんだよ、ちょっと待ってな、家の地図を書いてあげるよ」
街の生き字引か、図書館の資料に無い情報ももしかしたら知ってるかも知れないな。
「はいよ、下手な地図ですまないね、もし道に迷ったらその辺の人間に聞いとくれ、街の人間なら大体爺さんの事を知ってると思うよ」
女将さんは紙に描いた大雑把な地図を渡してくれた、目印になる建物も描いてくれているので分かりやすい。
「ありがとうございます、早速そのブロスタさんに話を聞きに行ってみます」
「紹介した私が言うのもなんだけど気をつけるんだよ、あの爺さん可愛い女の子に目がないからね、身体を触られたら引っ叩いてやりな」
「ん、自己防衛は大切、容赦しない」
アイギスが軽快なフットワークでシャドーボクシングをはじめた、老人相手だろうが手加減する気はないようだ。
「それじゃまたパスタを食べに来ますね、ありがとうございました、サクヤ、行くぞ」
椅子に座ったまま眠りかけていたサクヤを起こし店から出る、地図に描かれていたブロスタさんの家は街のはずれの様だ、食後の散歩には丁度いいだろう。




