061 小さな勇気
村の大人たちが朝からバタバタとしていた、こんな事は初めてだ、多分昨日の神さまの話が関係しているんだろう。
「ガル、しばらくは絶対に村から出ちゃダメよ、あなたも昨日の話を聞いていたでしょう?」
「わかってるよ姉ちゃん、悪いヤツがこの近くにいるんだよね」
今朝早く母ちゃんとユイト兄ちゃん達は村長の家に出かけて行った、母ちゃんを送って来た兄ちゃん達はすぐにまた出かけて行ってしまったけどどこへ行ったんだろう?
「母ちゃん、大人たちはどこに行ったの?ユイト兄ちゃん達も村から出たみたいだし」
「悪い人を探しに行くのよ、私達はお留守よ、ユイト君達も村の為に頑張ってくれてるの、帰ってきたら美味しい料理を食べてもらいましょう、2人ともお手伝いしてくれるかしら?」
本当はオイラも大人たちと一緒に悪いヤツを探しに行きたい、でもオイラが行っても足を引っ張るだけだ。
「逃げて!怪物よ!みんな村から逃げるのよ」
家の外で誰かが騒いでる、何があったんだろう?
「お母さん!アレは何!?土で出来た人形?」
「わからないわ、鍵を掛けて!カーテンも閉めるのよ!」
カーテンが閉まる前に土で出来た人間みたいなモノが隣のおばさんを担いでどこかに連れて行くのが見えた、なんだよあのバケモノは。
オイラ達は寝室に逃げて耳を澄ました、外からは村のみんなの悲鳴が聞こえていた。
その時玄関の方で何かが壊される音が聞こえた、ヤツらが来たんだ。
「お母さん、私達どうなるの…殺されちゃうの?」
「大丈夫よ、きっと大丈夫だわ」
母ちゃんと姉ちゃんが震えている、オイラだって怖い、でもオイラは男だ、父ちゃんが旅に出る前に『母さんとお姉ちゃんを守ってくれ』って言ってた、オイラが2人を守るんだ。
「おい化け物!オイラが相手だ!」
オイラは寝室から飛び出してバケモノに花瓶を投げつけた、母ちゃん達がオイラの名前を叫んでいたけどバケモノはオイラしか見えて無いみたいだ。
「こっちだ!追いかけてこい!」
化け物をすり抜けて家の外に出た、何だこの数は?村のあちこちでみんなが化け物に襲われていた、いけない、呆けている場合じゃない。
「おーい、捕まえてみろよ!!」
喉が痛くなるくらいの大声で叫ぶ、何匹かの化け物の動きが止まり顔の部分がオイラに向く。
「みんな!逃げるんだ!オイラが引きつけている内に早く!」
叫びながら村中を走り回る、化け物の動きはそんなに早く無い、これなら逃げ切れる!
その時だった、目の前に真っ黒な服をきた女の人が突然現れてオイラを蹴飛ばした。
「あら?ごめんなさいね坊や、あんまりキーキー五月蝿かったものだからつい蹴飛ばしてしまったわ」
そういうと女の人は片手でオイラの胸ぐらを掴み持ち上げる、細い腕なのに何て力だ、それに頭には角の様なモノが生え背中には蝙蝠みたいな羽が生えている。
「お姉さんあなたみたいな五月蝿い子供が大っ嫌いなの、まぁその内この村のエルフは声も出せなくなるまで生命力を吸い取ってあげるからお話しできるのは今だけね」
「みんなに何をする気だ!このクソババァ!」
「クソババァですって!?良いわ、あなたはここで殺してあげる、1匹くらい減っても問題はないわ」
クソババァの腕がオイラの首を絞める、苦しい、声も出せない、このまま死んでしまうのかなぁ。
「ぎゃあぁぁぁ!誰よ!誰が私の腕を切ったの!?」
肺に新鮮な空気が入りオイラは咳こんだ、誰かがオイラを抱きしめている。
「頑張ったな、もう大丈夫だ」
「ユイト兄ちゃん…?」
オイラを助けてくれたのは頭から2本の角を生やしたユイト兄ちゃんだった。




