045 残された謎
「ユイトさん、爵位を得るつもりは有りませんか?」
カッパーさんからとんでもない言葉が飛び出た、貴族にならないかと持ちかけられたのだ。
「正気ですか?俺みたいなどこの馬の骨か判らない男が貴族になるなんて」
領主館の戦いの翌日俺達とタリアムはカッパーさんとガリアムさんに話があると冒険者ギルドの執務室に呼び出されていた。
「私は本気です、イール村の件と今回の件、ユイトさんの功績は叙勲されるに値します、今回の顛末を陛下に報告する際に進言しようと思いまして」
「儂からの話も似たような物じゃ、S級冒険者としてユイトを本部に推薦しようと思うての」
2人の表情は真剣そのものだ、冗談で言っているのでは無いと眼が語っている。
「せっかくですが両方お断りさせて貰います」
サクヤとアイギスも頷いている、2人には念話で相談したが俺が決める事だと言われこの結論を出した。
「アンタらしい結論ね、勿体無いけど」
「カッパー殿、やはりダメじゃったのぉ」
「そうですな、私もダメ元でしたがやはり残念です」
タリアムも含めて俺が断る事は予想していたみたいだ。
「俺は旅を続けたいと思っています、申し訳ありませんが楽な身分でいたいんです」
「進言は諦めましょう、しかし私には陛下へ全てをお伝えする義務があるのです、そこは了承して頂けますか?」
カッパーさんには色々と世話になった、できるだけ気楽な旅をしたかったが仕方ないか。
「分かりました、それについては了承します」
「ほっほ、王宮勤めは大変じゃのう」
「ガリアム殿も笑い事ではないですぞ、ギルドの閉鎖を取りやめた以上これから忙しくなります、冒険者達も街へ戻ってくるでしょうからな」
ビズミスとリードが居なくなった事でギルド支部の閉鎖の話は無くなった様だ、ガリアムさんも昼寝のできない生活に逆戻りだな。
「あの~、私は何で呼び出されたんですか?」
「そうでした、タリアムさんの研究を国で支援させて頂こうと思いまして、今更都合の良い話なのですが」
「ありがたい話だと思うんですが一つだけ条件があります、発表は私の名前でなく先生の、ジンク先生の名前で発表できませんか?」
「それは構わないのですが、よろしいので?」
「はい、私は先生の残した成果を纏めただけ、賞賛されるのはジンク先生であるべきです」
「ユイトにタリアム、最近の若い者は名誉に執着がないの、ビズミスのヤツに見習わせてやりたかったわい」
「そう言えばビズミスの事なんですが、アレは何だったんですか?」
人ならざるモノへ変貌したビズミス、この世界の事情に疎い俺でもあれが異常事態だった事はわかる。
「それが全くわからないのです、先程ガリアム殿にも類似したモンスターがいないかお聞きしたのですが該当はありませんでした」
「そもそも人間が化け物になると言う話自体聞いた事が無いのぉ、すまんが儂ではさっぱり判らん」
「そうですか、アレからは邪悪な執念の様な物を感じました」
謎が残ってしまったな、あんなヤツでも元は普通の人間だった筈だ、それが何故あの様な異形の姿へ変わったのだろうか。
「引き続き国の方でも調査を続けて見ますが真相が分かるかは微妙でしょうな」
「儂からも本部へ報告はしておくが期待はせんでくれ、何しろ前例の無い話じゃ」
「それはそうと、そろそろ皆も限界なのでは?」
何の話だ?そう言えば先程から部屋の外がが騒々しい。
「そうじゃな、ユイト、最後に一つ厄介ごとを頼まれてはくれんか?もう儂らではどうしようもくての、下に降りてみて欲しい」




