040 王家の密偵
玄関の方から大勢の人間が雪崩れ込んでくる、その中に俺の良く知る人物がいた。
「ご無事でしたか!?これは…リードですか?リードを1人で倒すとは…」
「カッパーさん!?それに騎士団?」
「詳しいことは後で話します、まずはタリアムさんを助ましょう、それに他にも囚われた人々がいるかも知れません」
何が起こっているのかは判らないが俺に敵意を持っているのではない様だ。
「タリアムは地下室か離れに囚われている可能性が高いです、屋敷のメイドさんから聞きました」
「承知しました、第1小隊は離れの捜索へ、第2小隊は非戦闘員の保護及び周囲の警戒、第3小隊は地下の捜索へ向かえ!」
カッパーさんが騎士団へと指示を飛ばす、この人はいったい何者なんだ?
「俺も地下室へ向かいます、カッパーさん貴方は一体?」
「では私も一緒に参りましょう、その話はおいおいお話しします」
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騎士団が見つけた地下室へとカッパーさんと並んで歩く。
「ユイトさんを騙す様な事になり申し訳ありません、私は国王陛下から直接ビズミス伯爵の監視を命令された密偵なのです」
「カッパーさんが王家の密偵ですか?それが何故イール村に?」
「はい、この街の周辺に出没する盗賊はリード傭兵団の団員だと目星をつけた私は尻尾を掴む為ヤツらを雇いイールの村へ向かったのですが…」
そこからは俺も知っている、リザードマンの襲撃が起こり傭兵達に逃げられたって話に繋がる訳か、しかし危ない真似をする人だ。
「自分を囮にしたんですね、それにしても危なすぎますよ、殺されていたかも知れません」
「こう見えても多少は武術の心得がありましてな、ユイトさん達には遠く及びませんが傭兵の5人や10人に遅れは取りません」
ほっほ、と笑いながら自分の膨よかなお腹をさするカッパーさん、本当に戦えるのか?
「一度王都に戻り報告をするつもりだったのですがタリアムさんが攫われた事で急ぎ騎士団を招集しました、せっかく実用化の目処がついた転移魔法陣の技術が失われる事になれば王国、いや人類にとって大損害ですからな」
「なるほど、大体の事情はわかりました、リードの手下達も話していましたが攫われた女性達というのは?」
階段を降りていた俺達の前に重厚な鉄の扉が姿を現した、先行していた騎士の1人が扉を開けてくれる。
「これは…」
扉の向こうには大勢の女性が傷だらけで鎖に繋がれていた。
「盗賊に襲われた死体の中に若い女性がいなかったのでもしやと考えていたのですが、これは…あまりにも酷い」
排泄物の臭いが立ち込める地下室で、俺はビズミスの底知れぬ狂気に圧倒された。




