03 イール村防衛戦
村に近づくと怒号が鳴り響いていた、村人も櫓から弓を撃ち抵抗をしているがトカゲ人間の数は多い、このままでは門が壊されるのも時間の問題だろう。
「サクヤ!加勢するぞ!飛び込むから援護を頼む!」
「かしこまりっ☆です!『鬼火壱式』!」
サクヤの掌から火球が放たれトカゲ人間の群れに着弾する、着弾した地点を中心に半径3メートル程の巨大な火柱が立ち上がり範囲内にいた者は全て消し炭と化した、サクヤの炎が木で出来た防壁に当たれば村ごと焼かれてしまうだろう、恐ろしい熱量だ。
「防壁には当てるなよ!それじゃあ俺も行きますか!」
俺は何が起こったか判らず混乱するトカゲ人間の群れへ真空波を放ちながら突っ込んでいく、真空波の射線上にいた敵は体を切断され次々と命を散らしていった。
「ここら辺で良いかな?『旋風』!」
一旦腰の鞘に戻した咲夜を抜刀すると同時に体を一回転させ周囲360度の敵を斬り伏せる、VRMMOで身に付けた多対一に特化した剣術スキル『旋風』だ。
俺を中心に中規模の竜巻が発生する、竜巻は巻き込まれた敵を斬り刻みながら空高く打ち上げ、やがて消滅した、数秒後辺りには血と肉の雨が降り注ぐ。
「ゲ!ギャギギグギャ!!」
他よりも一回り体の大きなトカゲ人間が叫ぶ、仲間が次々と殺されていく事に恐怖を覚えたのだろう、撤退を指示している様だ、1匹、また1匹とトカゲ人間達は散り散りに逃げ出して行った。
「どうします?焼いちゃいますか?」
いつの間にか俺の横に来ていたサヤカが周囲に無数の火球を漂わせながら尋ねた。
「いや、これだけやれば十分さ、追いかけても全部は始末できないだろうし」
振り返ると村の前には100匹を軽く超えるトカゲ人間の無残な亡骸が散乱していた。
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「ささっ、こちらはナナイロドリの唐揚げになりやす、遠慮せずに召し上がってくだせい」
壮年の男性が俺達に料理の乗った皿を持ってきた、このイール村の村長ベータさんだ。
現在村ではトカゲ人間、リザードマンの撃退を祝う宴が催され俺達は大歓迎を受けている。
村の中心にある集会所に案内された俺達の前に次々と料理や酒が運ばれてくる、サクヤもご満悦な様子て運ばれて来たばかりの唐揚げをがっついている。
「ほへほいひいへふ」
「食うか喋るかどっちかにしろ、つーか食いすぎだ!少しは遠慮しろよ」
「はっはっは!幾らでも食べてくだせぇ、ミソアジブタの丸焼きもそろそろ焼きあがりますぜ」
「はふはひへふは!ほへほはへはひへふ!」
騒ぐサクヤの隣には料理の空き皿が山になっていた、細い体のどこに入っているのだろうか?質量保存の法則が仕事を放棄しているとしか思えない。
集会所の中心では櫓から俺達の戦闘の一部始終を見ていた男が身振り手振りでその様子を語っている。
賑やかな宴の中で異世界最初の夜は過ぎていった。
【鬼火壱式】着弾した地点を中心に巨大な火柱を発生させる、威力、殲滅力は申し分ないが乱戦では使い所が難しい。
【旋風】自分を中心に周囲に竜巻を発生させる、こちらも殲滅力抜群だが乱戦には不向き。