036 月夜、ベッドの上で
「やっぱり開けっ放しにしてた!あのクズに見つかったら何をされるか分からないわ、バレる前に気づいて良かった~」
部屋に入ってきたのは若いメイドだった。
とっさに棚の陰に隠れた俺に気づかずに開けっ放しだった窓を閉めたメイドさんはベッドに腰掛ける。
「は~、あんなクズの為に毎日毎日なにやってんだろ私、最近は下品な連中も入り浸たっていやらしい目で見てくるし、婚期が遅れる一方だわ」
異世界でも婚活女子は大変な様だ、しかしこのメイドさんビズミスに良い印象を持ってない様だな、話を聞けるかもしれない。
「誰かいるの!?」
マズい、メイドさんが鏡に映り込んだ俺の姿に気づいた。
こうなれば一か八かだ、俺はベッドにメイドさんを押し倒し口を封じる、第三者に見られたら言い訳が出来ない、現行犯だ。
「ん~~~!!」
「騒がないで下さい、俺は貴女に話を聞きたいだけです、お願いできますか?」
目を見つめてお願いする、駄目だったら申し訳ないが気を失って貰うしない。
メイドさんはコクコクと頷いて承諾してくれた。
「はぁ~びっくりした、あなた泥棒さん?」
「いえ、友人を探しに来ました、この屋敷に最近人が連れてこられませんでしたか?」
「う~ん、多分いなかったと思うけど…そういえば昨日の深夜傭兵達が何やら騒がしかったけど、関係あるかしら?」
恐らくタリアムは深夜の内に屋敷に連れられてきたのだろう、目撃者がいない筈だ。
「多分その時に連れ込まれたんだと思います、この屋敷に人を閉じ込める様な部屋はありませんか?」
「あのクズ領主人攫いまで始めたの?地下室か離れが怪しいわね、使用人は入るなって言われてる場所だから」
使用人に見られたく無いと言うことは後ろめたい事があるのだろう、まずは地下室から探してみるか。
「あなた良く見ると少し若いけどいい男ね、お姉さんといい事していかない?」
そう言ってメイドさんは脚を絡ませて来た、ちょっ…すごいちからだ!顔は紅く上気し獲物を狙う獣の目になっていた、このままだと喰われてしまう。
「けけけけ結構です!ありがとうございました!今夜騒ぎになったら使用人達と館から逃げて下さい!それでは!」
俺はメイドさんの脚を解き廊下へと逃げる、異世界に来てから最大の強敵だったかもしれない、恐るべし肉食女子。
『ユイトさん!何デレデレしてるんですか!?私には何もして来ないクセに!』
『主さまのスケベ、欲求不満なら私を抱くべき!』
頭の中で2人が何やらブーブーと俺を非難しているが俺は何もしてない、潔白だ。
残されたメイドはポツリと呟く。
「いい男だったのに、また婚期が遅れたわ…」




