035 領主の館
夕暮れまで街中を探し回ったが結局タリアムは見つけられなかった。
「タリアムは誰かに攫われた可能性が高いと思います、俺は領主が犯人だと睨んでるんですが」
「錬金術士のお嬢さんの研究の成果を横取りしようとしていたという話でしたね、完成の目処がついた事を知り焦ったのかも知れませんな」
「そうじゃのぉ、あやつの腐った性根ならそれくらいやりかねん」
俺達はギルドの建物に集まりそれぞれ街で集めた情報を交換していた、ガリアムさんとカッパーさんも友人や知り合いにタリアムの目撃情報を聞いて回ってくれたが収穫はゼロだった。
「俺は領主の館を探ってみようと思ってます、場合によっては2人にも迷惑がかかる事になるかもしれませんが…」
「儂は大丈夫じゃ、お前さん達の事は孫の様に思っとると言ったじゃろ?それに近く街を離れるつもりじゃ」
「私も元々街を離れるつもりでいたので構いませんぞ、ユイトさん達の強さは知っていますがくれぐれも気をつけてください」
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日が沈み辺りが暗くなった頃俺達は領主館の周りの林に身を隠し中の様子を伺っていた。
『やけに警備の人が多いですね』
『怪しい、プンプン臭う』
人数が多いと目立つ為2人は憑依してもらっている、屋敷の入り口にはリード傭兵団らしき門番が2人立ち庭にも数名の男がウロウロしていた。
『確かに物々しい警備だな、俺達を警戒しているのか?』
『ユイトさん、2階の左端の窓が開いています、灯りも付いてませんしあそこから中に入れそうですよ』
サクヤの言った窓をみるとカーテンがひらひらと風にたなびいていた、明鏡止水を使い気配を探るが窓のある部屋の周囲には人の気配を感じない。
隠れていた林から出ると領主館の塀を飛び越え庭に着地する、周りの見張りはこちらに気づいていない、そのまま庭を突っ切り再び跳躍、一連の動きは時間にして30秒にも満たなかっただろう、俺達は気づかれる事なく領主館への侵入に成功した。
『ここは客用の寝室か何かか?それにしても趣味の悪い』
侵入した部屋を見渡すと机やベッド、全ての家具がゴテゴテに装飾されいかにも高価な物だとわかる、しかし華やか過ぎて落ち着かない、俺が貧乏性だからかな?
『領主の搾取の象徴、少しは街のために還元するべき』
『この燭台なんて金で出来てますよ、売れば屋台の串焼きが何本食べられますかね?』
『たんまりと溜め込んでいるんだろうな、そんな事よりタリアムだ、館の中に人が多すぎて気配を探ってもどこにいるかわからなかった、虱潰しに探すしかないな』
その時客用の寝室のドアに気配を感じた、マズい、明鏡止水を止めたのが仇になったか。
ドアノブを回す音が部屋に響く、やがてドアが開けられ1人の女が部屋に入ってきた。




