034 消えた錬金術士
珍しく俺達の滞在する宿、黄昏の巨人亭に客人が訪ねて来た、商人のカッパーさんだ。
「ご無沙汰してますカッパーさん、今日はどうしました?」
「お久しぶりです、近々この街を離れる事になったのでお別れの挨拶に参りました、それとユイトさんの探している物と関係あるかは判りませんが気になる話を聞きまして」
「気になる話ですか?良かったら聞かせて下さい」
「ええ、ここから半月程西に進んだ所にザラキマクという港町があるのですが最近その街で武器や鎧の価格が暴騰していると仲間に聞きましてな、どうやら海のモンスターが大量に発生しているとの噂です」
モンスターの異常発生か、確かにイール村の状況と似ているが俺が探しているVRMMOの装備品とは関係あるかはわからない。
「その為各地から武器や防具がザラキマクに集められているそうです、ユイトさんの探している『強力な装備品』もその中にあるやもしれませんな」
「ありがとうございます、サクヤ達と相談してみます、この街にいても情報が集まりそうにありませんし」
「そういえばサクヤさんとアイギスさんの姿が見えませんがお出かけですかな?」
「はい、知り合いの錬金術士の所へ遊びに行ってます」
ここ最近2人は研究の目処がついたタリアムのアトリエへ毎日の様に遊びに行っている、今日もカッパーさんが来る少し前に出かけて行った。
『ユイトさん!聞こえますか!?大変です』
『サクヤは落ち着くべき』
頭の中に2人の声が聞こえて来た、何やら問題が起きた様だ。
『タリアムちゃんが居なくなりました!』
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「中は特に荒らされてはいないな、鍵も閉まってたんだろ?どこかに出かけてるだけなんじゃないか?」
「タリアムは引き篭もり、滅多に家から出ない」
「それもそうだな、サクヤは何か心当たりはないか?」
「無いんですよね、幾ら呼んでも出てこないから合鍵で入ったんですけどもぬけの殻でした」
俺は2人に念話でアトリエに呼び出されていた、離れていても脳内で会話が出来る便利な機能で俺の意思でオンオフ可能だ、俺にだって1人になりたい時はある、体は10代の男子なのだ、察して欲しい。
「ひとまず街中を探してみるか、アイギスは残ってタリアムが帰ってきたら教えてくれ、俺とサクヤは手分けして捜索だ」
2人と別れて街中でを探すがどこにも見つからない、顔見知りの屋台の店主達にも聞いてみたが今日は誰もタリアムを見かけていないと言う話だった。
「こうなると…やっぱり1番怪しいのはあそこだよな」
俺の視線の先には街の外れ、小高い丘の上にそびえる領主の館があった。




