347 阿呆
アレプデスの街をぐるりと囲う様に作られた城壁。大きな岩を切り出したブロックを積み重ねたこの城壁はちょっとやそっとの事で破られる事はないだろう。
しかしそれは地上からの侵攻に対してに限定される。空を舞いアレプデスを蹂躙しようと襲い来るドラゴン達に対してはどれだけ頑丈な城壁でも意味は無い。
その城壁の上でルナ、アイギス 、テミスの3人は遥か北の空を睨み付けていた。
「ルナ、アンタ本当に何か考えが有ってこんな事言ったんでしょうね?気配から察するにこっちに向かってるドラゴンは300…いや500体は下らないわよ?」
「無論じゃ。テミス、お主は余のことを阿呆と思ってるのではないか?」
「…アンタの事アホだなんて…そ、そんな事少ししか思ってないわよ?ね、ねぇアイギス ?」
「ん、ルナはアホ。全会一致、異論なし」
「ちょっとアイギス !アンタズバリ本当の事言ってんじゃないわよ!もう少し言葉を濁しなさい!気を使った私が馬鹿みたいじゃない!」
「クックック…皆が余の事をどう思っているかよーくわかった…そうか…余は阿呆か…」
高らかに笑い声をあげるルナ。テミスは額に指をあてしまったといった表情だ。
「そうじゃ、余は現実と空想の区別もつかない様な阿呆じゃ。じゃがふざけて良い時と悪い時の区別はつく。ユイトにも言ったが人の命の掛かった状況でふざけるのは阿呆ですらない、ただの下衆じゃ」
ルナの纏う空気が変わる。今の彼女は真剣そのものだ。それを感じとったアイギスとテミスはいつもの様に茶々を入れるでなく黙って
ルナの話に聞き入る。
「じゃがユイトはこんな阿呆を信じてくれた。余ならばあの空飛ぶトカゲ共を食い止める事ができると…阿呆の言う事を信じてくれたのじゃ」
「!?ルナ!アイギス !来た!ドラゴンよ!」
「ん!守りは任せて。ルナ、本当にイケる?見栄を張ってはダメ」
遠くの空から黒い雲がアレプデスの街へと近づいてくる。違う、アレは雲なんかじゃない。空を覆うドラゴンの大群だ、生態系の頂点に立つモンスターであるドラゴン。それが群れを成してアレプデスへ襲いかからんと姿を現したのだ。
「阿呆には阿呆の矜持がある、余を信じてくれたユイトの為。そして何よりかけがえのない人々の生命の為!余はあのトカゲ共を欺いてみせる!ムーンオブイリュージョン!!」
ルナの全身から放たれた魔力の膜がオーロラの様に広がっていく。魔力のオーロラはアレプデスの街全体をすっぽりと覆い隠した後も更に膨張ん続ける。
「さぁトカゲ共!其方らには余の掌の上で踊り狂ってもらうぞ!」
ルナの首元に輝く闇の七星核の首飾りが怪しく光を放つ。それと同時に魔力のオーロラが迫り来るドラゴンの群を飲み込んでいった。




