343 アレプデスの惨状
「くそっ!誰か手の空いてるヤツはいねぇのか!?こっちの瓦礫の下で誰か下敷きになってやがる!まだ今なら助けられるかも知れねぇから手を貸しやがれ!」
「バカ言ってるんじゃねぇ!生きてるか死んでるかもわからないヤツの事なんて放っておきやがれ!それよりも薬か回復魔法の使えるヤツを連れてこい!このままじゃこの爺さんが死んじまうぞ!?」
「薬なんてもう何日も見てません…回復魔法を使える魔法使いだって魔力の使いすぎで昏睡状態になっている人が殆どです…」
今にも殴り合いをはじめそうな殺気だった二人の男達に若い女が消え入りそうな声で呟く。話の内容から推測するにどうやら怪我人の救出に当たっている兵士達の様だ。
ドラゴンと魔族の襲撃を受けたアレプデスの市街地、そこは今まさにこの世の地獄と化していた。破壊された家屋の下敷きになった者がいた、瀕死の重症を負いながら満足な治療を受けらない者がいた。このままでは次の襲撃に備えるどころではない。
「グランズ王国からの救援はまだなのかよ…このままじゃ本当にアレプデスは…」
「弱音を吐くな、きっと海が落ち着けば助けは来る。今は俺達に出来る事を全力でやるしかない…爺さん、辛いだろうが少し待っててくれな?」
「兵隊さん…ワシは十分に長生きできた…その崩れた家に住んでたのはまだ若い夫婦だった筈じゃ…ワシはいいから若いモンの命を優先してやってはくれんか…」
「お爺さん…何で!何で私には回復魔法が救えないの!?どうしてなのよ…」
近くの瓦礫の山から助けられたらしき老人の腹からは人の腕程もある木材が貫通していた。今すぐに満足な治療を受ければ命は助かるだろうが街の状況からそれは難しい。自分の力不足を嘆いた女兵士は老人の手を握り涙を流す。
「甘ったれるな新人!お前が泣いてこの爺さんが助かるなら幾らでも泣け!でもそうじゃ無ぇだろうが!?」
パァンと乾いた音が辺りに響く。怒鳴り合っていた男の片割れが女兵士の頬に平手を打ち付けた音だ。
「打った事は謝まる、だけど今は自分に出来る事を考えてくれ…頼む、今は一人でも多くの力が必要なんだ」
「先輩…私の方こそすみませんでした…自分の力不足に嫌気がさしてしまって…」
「力不足を感じてるのは俺達もだ、さぁ、その家を瓦礫をどかすから手を貸して…なんだありゃ!?ドラゴンか!?」
港の方角の上空から何者かが近づいて来る。最悪だ、壊滅状態の今のアレプデスには一頭のドラゴンでも撃退できる戦力は残っていない。
「…いや待て?ドラゴンにしちゃ小さすぎる…人だ!人が空を飛んでやがる!?」




