033 タリアムの研究
「あんのバカ領主!!あったまきた!!ちょっと私アイツの館に殴りこんで来る!」
「タリアムちゃん!落ちついて下さい!」
「どうどう、お菓子食べる?」
顔を真っ赤にして外に出て行こうとするタリアムに縋り付きサクヤが引きずられている。
アイギスはタリアムの顔の前にお菓子を差し出して怒りを鎮めようとしているみたいだ。
タリアムのアトリエを訪れた俺達は昨日ギルドで起きた事をタリアムに話した、それでこの騒ぎである。
「フーッ…ありがと、ちょっと怒りで我を忘れてしまったわ」
「噂には聞いていたが初めて領主をナマで見たよ、リード傭兵団ってヤツらと一緒だった」
「あぁアイツらね、バカ領主の私兵よ、あの馬鹿自分の思い通りにならないからって騎士団を遠征に行かせてばっかりなの、その代わりの兵力ね」
気にくわないものは徹底的に排除する、まさに独裁者だな。
「そんなこんなでギルドに売る予定だった魔石が余ってしまったんだけど要るか?」
「十分足りているわ、魔石を錬成して魔核も完成したしね、後は術式の構築だけなんだけど中々上手くいかなくて…」
アトリエの中を見るとあちこち荒れていた、食事も旅用の携行食で済ましている様で食べかけの物が机の上に散らばっている、アレは…下着!?見なかった事にしよう。
「ちょっと根を詰め過ぎなんじゃないか?食事くらいまともな物を食べろよ、そうだ!ちょっと台所借りるぞ、俺の郷土料理を作ってやる」
「ユイトさん、私は20個くらいお願いします」
「サクヤ、食べすぎ、私は2つ欲しい」
この前市場で偶然見つけた食材だ、まさか異世界で手に入るとは思わなかった俺のソウルフード。
「ありがとう、出来るまで少し寝てるわね、昨日徹夜だったのよ」
「わかった、出来たら起こすよ、ゆっくりしてろ」
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「ユイトさんのおにぎりは絶品です!」
「塩加減が絶妙、店を開くべき」
俺が作れる唯一の料理、それはおにぎりだ。
「驚いた、コメ?って粒を煮て握っただけよね?なんでこんなに柔らかな食感なのよ?」
「あんまり力を入れずに握るのがポイントだな、ギチギチに握らず隙間に空気を入れる様に握るんだ」
「なるほどね…力をいれない…?隙間をあける…っ!そうよ!それよ」
おにぎりを片手にタリアムは作業用の机の上の図面の様な物を見て何やらしきりに頷いている。
「いけるわ!いけるわよ!私は術式を詰め過ぎていたんだわ!だから魔力が循環不良を起こしたのね!隙間を作れば解決するわ!」
チンプンカンプンな事を叫びながらタリアムが俺達に順番に抱きついてくる。
その光景を窓から覗いている男がいる事に俺達は気づけなかった。




