330 手にした希望
「北に有る独立都市国家ですか…確かにこの件にもカイトや偽神が絡んでるかも知れませんね」
「あぁ、あのラムとか言う女の魔族も自分達の拠点が北に有るって口を滑らせてたしな。だからお前さんも北を目指す事にしたんだろ?」
「はい、前にも話しましたが偽神の目的は人間と魔族を争わせる事、つまり戦争を起こす事自体を目的としてます。カイト達が北の大地を拠点にしてるなら魔族の軍もそこにいる可能性は高いと思ってます」
「人と魔族の戦争か…そんな事になればどれだけの犠牲者が出るか分かったもんじゃないね、何とか未然に防ぐ事ができればいいんだけど」
タチが悪いのは偽神が戦争を起こす事自体を目的としているところだ。普通の戦争と違い終着点がない。一旦戦いが始まれば人間か魔族、もしくは両方が滅びるまで続くだろう。
「でもこのドラゴンロックに来て希望をみつける事もできました」
「アン達の事だな?俺もあの三姉妹に会って魔族って連中の事を少し誤解してたと思い知らされたぜ、魔族はただ人間に害を与えるだけの存在じゃ無ぇ」
「僕達も今まで何人かの魔族と戦いその命を奪って来た。彼らは皆人間に敵対し説得に応じる事は無かったけどアン達は違う、もしかすると彼女達が特殊なだけかも知れないけどね」
「それでも可能性はゼロではありません。アン達と同じ様に他の魔族とも分かり合う事は出来る筈です」
俺の言葉を聞いた2人が無言で頷く。この山で出会い行動を共にする様になった魔族の三姉妹。きっかけは互いの利益の為だったが俺はもう彼女達とは仲間になれたと思っている。
「だとすると尚更戦争なんてさせる訳にはいかねぇな。本当は戦う事が嫌なのに無理矢理偽神やカイトの命令に従ってる魔族もいる筈だ。そんな連中が無駄に命を散らすなんて事はあっちゃなんねぇ」
「その通りだ。この山で起こった事はすでに手紙に書いてシークに近くのギルド支部へ届けてもらった。そろそろ王都にいる陛下の耳にも入っている頃だろう、あの方も決して国民が血を流す事を許す様な人間じゃない。もしかすると今頃自らアレプデスへ向かってるかも知れないね」
邪竜は復活してしまった。偽神と邪竜、どちらがあの身体の支配権を手にしたかはわからないがどちらにしても人類にとっては脅威でしかない。俺が偽核に身体を支配されなければこの様な事態を防げたかもしれないが今となってはどうしようも無い。俺は今自分に出来る事をするしかない、反省や後悔は全て終わった後だ。




