324 命を張る時
「お前は約束したよな?そのカイトって小僧を助ける変わりに邪竜へ手出しはしないってよ」
「やれやれ…この様に重要な約束事は正確に覚えて欲しいですね。確かに私は約束しました、私は邪竜の封印に手を出さないと」
ハァと溜息を吐きながら馬鹿にした様な態度でレブが言い放った。遥か昔に人間を滅ぼそうとし封印された強力な力を持つ邪竜ルシオン。その肉体を偽神の器として利用させる訳にはいかない。
「貴方達にも分かる筈です。この大空洞に漂う魔力の質が明らかに変わっているのを、どうやら無事に邪竜の封印は解かれた様ですね」
「シグマ、腕の傷は本当に大丈夫か?どうやらもう一戦しないといけない様だ。ユイト君が動けない今お前と僕でなんとかしないといけない」
「なんだよこのアホみてぇに濃密な魔力はよ…若ぇ連中をこんな場所で死なす訳にはいかねぇな。俺とオウルで時間を稼ぐ、皆はユイトを連れてこの場所から逃げろ」
寒気が止まらない、以前エナハイ侯爵の身体を依代にした偽神と対峙した時と同じ感覚だ。あの時の偽神と同等、またはそれ以上の力を持つ何者かが目覚めようとしている。
「そんな事はできません…メリッサ、後はどうなっても良い。少しの間だけでも痛みを消し去る様に俺に癒しの力を使ってくれ」
「ダメよ!そんな事すれば間違い無くユイト君は死んでしまうわ」
今ならまだ封印は完全に解けていない。急げば再び邪竜を封じる事ができるかも知れない。今はムリをしてでも戦わなければいけない時だ。
「やめとけユイト。ここは俺達に任せろ、お前達まで死んじまったらこの世界に希望が無くなっちまう」
「こういった時は年寄りから命を張るものさ。家族に会う事が有れば伝えてくれないか?僕はいつまでも3人を愛していると」
シグマさんもオウルさんも死ぬ覚悟で邪竜の封印を守ろうとしている。それに比べて今の俺は何だ?偽核に操られ皆に迷惑をかけて一番重要な戦いでは動けずに見ているだけ。これではあまりにも情け無さ過ぎる。
「ユイトさん…ここはお2人の言う事を聞くべきです。ユイトさんが生きてさえいれば希望は完全にはなくなりません」
「分かってる…畜生…俺はなんて情けないんだ…」
俺の気持ちを推し量ったのかサクヤが優しく手を握りながら諭す様な口調で話す。俺が死ねばこの世界は完全に偽神の思い通りになってしまう。分かっている、分かってはいるが2人を見殺しになんて出来る筈がない。唇を噛みしめたその時だった。
「ダーリン!さっさとこの空洞から逃げて!あの邪竜っての思ってたのよりずっとヤバい!偽神様の支配を受け付けないの!」




