318 ペースメーカー
「何だ!?なんでテメェが生きてやがる!?確かに首を跳ねた筈だ!」
「バカルメス!何で不意打ちを仕掛けるのに声出してるのよ!?そのまま突っ込んじゃダメよ!一回戻りなさい!」
「ゴ、ゴメンよテミス…ついカッコつけたくなっちゃってさ」
テミスの怒号を聞いたルメスが空中で軌道を変え引き下がる。今はとにかくルメスの無事が確認出来た事を喜ぼう。
「なんだ?よーくみれば俺が斬ったのは幻覚だったのか?血の一滴も出てやしねぇじゃ無ぇか」
「あちゃー手品のタネがバレちゃったね。今と同じ作戦は通用しないかも…」
「アンタが調子に乗ってカッコつけようとしたからでしょ!あのままだと本当に殺されてたわよ!」
「無茶はしちゃダメよルメスちゃん。私でも流石に首を跳ね飛ばされた人を治す事は出来ないわ」
後退したルメスの元へテミスとメリッサが駆け寄る。皆俺を元に戻す為にこの場へ留まった様だ。
「まんまと騙されたが次はそうはいかねぇぞ?次はテメェら全員の首を跳ね飛ばして辺り一面血の海にしてやるぜ」
自分が騙された事に気づいたもう1人の俺がルメス達を睨みつける。怒っている様な口調だがどこか楽しそうにも見える。きっと皆を殺した想像でもしているのだろう。
「ねぇルナ、1つ気になった事がある」
「なんじゃアイギス。余に何か聞きたいのであるか?」
「どうしてルメスの幻影は血を流してないの?」
「そ…それは…余が血を見るのが苦手だから幻影は流血しない様に創り出してしまったのじゃ…」
少し気まずそうにルナが俯いて呟く。それを聴いた周りの皆は呆れ顔だ。
「ブッ!アハハハハ!なんだよルナ中二病全開で血が苦手って!アハハハハ」
「ユイトさん?いきなり笑い出してどうしちゃったんですか?」
「アハハハハ…悪いな驚かせて。だって考えてもみろよ?散々夜の女王とか血の盟約とか言ってたルナが血が苦手って」
「フフフフ…確かにそうですね。ルナちゃんたら顔を真っ赤にして恥ずかしそうです」
ルナの意外な秘密が分かり場の空気が変わった。だがそれは決して悪い事じゃない。これがいつもの俺達のペースだ。
「貴様ら…何を俺をほったらかして和やかにしてやがる…ふざけやがって!もっと絶望しろ!怯えた顔を俺にみせろ!」
無視をされた様な形になったもう1人の俺が怒りの声を上げる。俺の負の感情の化身であるコイツにとって今の和やかな場の雰囲気は居心地が悪いのだろう。
「あー笑った。皆が俺の為に体を張ってくれてるんだ、張本人の俺もやれる事をやらないといけないな」




