317 違和感
「そんな…嘘だろ…ルメスー!!!」
「ルメスちゃん!嫌です…こんなの絶対に嫌です!」
もう1人の俺の振るった凶刃がルメスの首を跳ね飛ばした。宙を舞うルメスの首が地面に堕ち残された身体は力なく倒れこんだ。
「この光景が見えてるんだろ主人格サマよぉ!?俺が憎いか!?憎んでくれて構わないぜ!お前が憎しみの感情に支配されればされる程俺は強くなれるからなぁ!アハハハハ!!」
俺を救う為にルメスが犠牲になってしまった。親しい者の死、その現実を突きつけられた俺は茫然自失となりスクリーンに映し出されたルメスの死体を只見つめる事しか出来なかった。
「ルメス…なんでお前が死なくちゃいけなかったんだ?」
自然と独り言が漏れる。勿論頭と胴体を切り離されたルメスは何も答えてはくれない。しかしこの死体は何かおかしい。
「サクヤ、一つ確認してもいいか?お前達女神も実体化している時は普通の人間と同じ身体なんだよな?」
「えぇ、ユイトさん達と同じく血の通った普通の肉体です…ですからあんな風に首を切られてしまったら生き返る事なんて出来ません。メリッサちゃんの力を使ってももうルメスちゃんは…」
「ハハハ…アハハハハ…そうか!そういう事か!?良かった!ルメスは死んでなんか無いぞ!」
「ユイト…さん?どういう意味ですか?ルメスちゃんは生きてるんですか?」
「あぁ、多分、いや間違いなくルメスは無事だ。さっきのサクヤの話を聞いて確信したよ。ルメスの死体を良く見てみろ、おかしいところに気づかないか?」
「おかしいところですか?一体どこが…あっ!?血が全く出ていません!」
俺が感じた違和感。それはルメスの死体からは一滴の血も出ていない事だった。ルメスの身体が普通の人間と同じなら首を切断されれば夥しい量の血が辺りに撒き散らされている筈だ。
「そうだ、ルメスのヤツめ敵の油断を誘う為に無茶な特攻を仕掛けてワザと殺された様に見せかけたんだ。あの死体は多分ルナの見せている幻影だろう。全くヒヤヒヤさせてくれるな」
もう1人の俺はルメスを殺したと勘違いしまだ高笑いをあげている。完全に隙だらけだ。
「アレがルナちゃんの幻影だとすると本物のルメスちゃんはどこに行ったのでしょうか?私が見ている光景には見当たりませんが…」
俺も投影されたスクリーンを隈なく探してみたがルメスの姿を見つける事は出来なかった。一体ルメスは何処へ消えてしまったのだろうと考えているその時だった。
「隙アリィ♪ユイトは返してもらうからね!!」
突然何もない空間から姿を現したルメスが破魔の短刀を構え上空から落下してきた。




