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316 鞘

俺自身の中に芽生えた邪な感情。その感情が人格を得て俺の身体を支配している。ヤツは俺が生み出した…いや自分自身と言える存在なのだ。そんな自分の汚い部分を見られてしまった、幻滅されても仕方ない。


「私は幻滅なんてしませんよ。強い力を持てば誰だって思いのままにその力を振るう事を考えると思います」


「だけどな…それが俺の本心だったんだよ!力のままに暴れ周り誰かれ構わず傷付けようとする!そんな最低なヤツが俺だったんだよ!!」


「それでも私は…」


「同情なんてよしてくれ!幾ら表面を綺麗に誤魔化しても俺は心の底でアイツが言っている様な事を考えてたんだぞ!?本当の自分があんなどうしようも無いクソ野郎だって見せられた俺の気持ちなんて分かる筈ないだろ!?」


何か言おうとしたサクヤの声を遮り思わず声を荒げてしまった。自分の弱さ、汚さ、そんなモノを見せつけられた苛つきからついサクヤに八つ当たりしてしまった。サクヤはただ俺を励まそうとしてくれただけなのに。本当に俺はどうしようもない人間だな。


「私には…私には今のユイトさんの気持ちはわかりません。でもこれだけは言わせて下さい、今ユイトさんの身体を操っている誰かはユイトさんじゃありません。本物のユイトさんは今私と話をしているユイトさんです」


「サクヤ…」


「フフフ…前にも2人でこんな話をしましたね?覚えてますか?」


「あぁ、アイロンスティールでの事だろ?あの時も初めて人を殺して落ち込んでる俺をお前が慰めてくれたよな」


「覚えくれていて嬉しいです。あの時ユイトさんは相手がどうしようもない悪人なのにその命を奪った事に思い悩んでましたね」


アイロンスティールの街を私物化し好き放題やっていた領主のヒズミスと手下のリード。俺は2人の命をこの手で奪った事に悩んでいた、その時もサクヤは今と同じ様に俺を励ましてくれた。


「あの時私はユイトさんに言いました。力の使い方を間違った時は私がユイトさんの鞘になるって」


「そうだな…確かにそう言って励ましてくれたよな」


「でも今までユイトさんは自分の力の使い方を間違った事なんてありませんでした。今だって偽核を使われて他人に力を好き勝手使われているだけです。ユイトさんは一度だって自分から罪の無い人を傷つけようだなんてしなかったじゃないですか?」


サクヤの姿は見えないがとても近くにサクヤの存在を感じる。今まであやふやだった自分の感覚が少しずつ元に戻っている様だ。


「だからそんな風に誰かがユイトさんの力を使って暴れる事なんて絶対に許せません!ユイトさん、今こそ私が…いや、私達がユイトさんの鞘になります!」

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