308 カイトと女神
「身体中から痛みが消えていく…これが生命の指輪の化身の力か…」
「はい、これでおしまい。傷は全部治しておいたけどしばらくはあまりムリな動きはしない事。お姉ちゃんとの約束よ」
生命の指輪の化身、確かメリッサとか言った女性が悪戯っぽく笑いかけて来た。僕も生命の指輪を装備しているけどメリッサ程の強い治癒の力は使えない。そもそも装備品に女神が宿るなんて話は聞いた事がない、彼女達は一体何者なんなんだろう。
「何を呆けているの?傷が治ったなら早く主さまを元に戻す方法を教えるべき」
「痛っ!いきなり何をするんだこのぺったん娘!」
考え事に耽っていると何者かに後頭部をどつかれた。振り返るとそこには銀髪の少女が僕を非難する様な目で睨みつけていた。確か神甲アイギスの化身だったかな?
「あらあら、アイギスちゃんたらいきなり暴力を振るったりしたらダメよ」
「そんな事気にしている場合じゃない。後次に私の事をペッタン娘って言ったら地獄をみせる」
「そうね、ねぇ。カイト君って言ったわよね?私達にとってユイト君はとても大切な人なの。ユイト君を元に戻すのに協力してくれないかしら?」
そうか、レブのヤツは僕を助ける事と引き換えにユイトを元に戻す事を約束したのか。それでこの少女達は僕を治療してくれたんだな。
「鬼ぃさんを元に戻す方法…確かに戻せる方法はあるけど今の鬼ぃさんに通用するかどうか…」
少し離れた場所でユイトとレブの下僕のモンスター達が戦っているのが見える。いや、あれは戦いなんかじゃない。ただの虐殺だ、モンスター達の断末魔に混ざり時折ユイトの笑い声が聞こえて来た。今のユイトは他者の命を刈り取る事を心底楽しんでいる。
「ふざけるんじゃないわよ!アンタがユイトをあんな風にしたんでしょ!?それなら責任とって元に戻してよ!」
「キミが無理って言うならボク達でユイトを元に戻してみせる。だからその方法だけでも教えてくれないかな」
「そうだ、夜の混沌を統べる女王たるレジェンダリー=ダークネス=クイーンに不可能は無い。必ず我が主を元ある姿へ戻して見せようぞ」
僕を取り囲むユイトの仲間達が次々と口を開く。心の底からユイトの事を心配しているようだ。
「わかった…これを鬼ぃさんに埋め込まるはた偽核に突き刺せば元に戻る…と思う」
僕は異空間に収納しているMMORPGの装備品の中から一振りの短刀を思い浮かべ取り出した。刀身から柄まで銀で作られた一見十字架にも見える短刀だ。




