305 休戦
「ん?なんだかモンスター達の動きがおかしいわ…気をつけて!何かこっちに来る!」
アンが何かに気付き私達へ注意を促します。アレは…レブと名乗った魔族がモンスターの群れを割ってこちらへと近づいて来るのが見えました。
「ご機嫌よう麗しいお嬢様方、どうか武器を収めていただけませんか?下僕共へは貴女達との戦いを一時的に中断する様に命令しました」
「どういう風の吹き回しですの?貴方は邪竜の封印を解きに祠へと向かった筈では?」
「それどころでは無くなったのです。貴女達と話をしたい事があります」
この男は何を考えているのでしょう。胡散臭い事この上ありませんが無視する訳にもいきません。悩んでいると聞き慣れた声が聞こえてきました。
「おーい!そっちは無事か!?急にモンスター共が動かなくなっちまった…ん?テメェは確か…」
「レイ。私達の方も敵の動きが止まった。それよりも主さまが大変、早く助けに行きたい」
シグマ師匠達とアイギス達が相手をしていたモンスターも動きを止めた様です。中央で戦っていた私達の元へ仲間が集結しました。
「皆さん集まりましたか。これは都合が良い、貴方達へ提案したい事があります」
「提案?一体何考えてやがるんだ?」
「シグマ、いきなりケンカ腰はよせ。提案の内容は大体察しがつく。一時休戦だろ?」
今にもレブへと殴りかかりそうなシグマ師匠を宥めながらオウル師匠がレブを睨みつけています。私もいつ戦闘が再開しても良い様に瞬身のレイピアの柄を握りしめました。
「これは話が早くて助かります。貴方達も気づいているのでしょう?」
「あぁ。強い反応同士が戦いを始めたと思ったら片方が急にバケモノみてぇな殺気をばら撒き始めやがった。アレは…ユイトだな?」
「そうです。このままでは我が主人カイト様は貴方の仲間に殺されてしまいます」
「それだけなら僕達に休戦するメリットは無いんだけどね…おい、お前の仲間は一体ユイト君に何をした?」
「おそらくですが彼は偽核を埋め込まれたのでしょう。このままでは貴方達の仲間もタダではすまない。自我を失ってしまうかもしれません」
ユイトが偽核を埋め込まれた?それに自我を失うとは一体…
「テメェの提案に乗ってもいいがユイトは元に戻せるんだろうな?」
「方法はあります。それに休戦の申し出を受けて下さるのなら私は邪竜の封印に手を出さない事を約束しましょう」
「…分かった。その言葉を信じよう。皆もそれでいいかい?」
オウル師匠が私達の顔を見渡します。皆無言のまま頷きました。ユイトを救うにはこの男の提案を呑むしか無さそうです。




