300 滾る力
赤と黒のオーラに身を包んだカイトが高らかに笑い声をあげる。初めての鬼神化で気分がハイになっている様だ。
「ずるいなぁ鬼ぃさんは。今までこんなに凄い力を使ってこの世界でやりたい放題やってたんでしょ?」
「別にやりたい放題なんてやってないさ。その力はむやみやたらに使って良いモノじゃない」
「そんなお説教聞きたくないね。僕だって早くこの力を試してみたいんだ!」
言うと同時にカイトが斬りかかって来た。俺も咄嗟に咲夜を抜き斬撃を受け止める。ぶつかり合う二振りの咲夜、地面の岩盤がその衝撃に耐えられずに陥没してしまった。
「あははは!最高だ!最高の気分だよ鬼ぃさん!こんなに楽しい気分は初めてだよ!」
「くっ!流石に鬼神化した相手だといつもの様にってワケにもいかないな…」
「この力を使って自分でNPCを倒して回るのも楽しいかもね?人の沢山いる場所で暴れ回ってみたりとかさ」
「そんな事はさせない!この世界はゲームの世界じゃないんだぞ!」
鬼神化したカイトの能力は俺と同じく普段の100倍になっている筈だ。そんな状態のカイトがザラキマクやグランズの様な街で暴れ回ればどれだけの人が犠牲になるかわからない。
「鬼ぃさんだって本当は心のどこかではこの力を使ってやりたい放題やってみたいって思ってるんじゃない?そうだ、いい事思いついた!行けっ!剣よ!」
「つっ!?コイツ1人相手にするのに精一杯だってのに!」
カイトと鍔迫り合いになって身動きが取れない状態の俺に無数の剣が迫りくる。このままでは切り刻まれてしまう。仕方無く地を蹴り後方へと飛び退く。
「数だけ揃えても今の俺に攻撃は届かないぞ!!」
鬼神化した今となっては脅威ではない。スローモーションの様に迫り来る無数の剣を咲夜で弾き飛ばした。
「だけど隙は作れたよ。鬼ぃさんも自分に素直になっちゃいなよ!」
「いつの間にっ!?」
襲いかかる剣に注意を取られている間にカイトの接近を許してしまった。何かを握りしめたカイトの拳が俺の胸へと突き刺さる。
「コレは…偽核?しまった、コレが狙いだったのか」
「そうだよ。今の鬼ぃさんは鬼神化の破壊衝動を我慢している筈さ。そんな状態の鬼ぃさんに偽核を使ったら一体どうなってしまうのかな?」
カイトの拳による攻撃は俺にダメージを与える事は無かった。ヤツは元から俺に攻撃するつもりなんて無かったのだ。
「偽核は近くに負の感情を持つ相手を見つけると宿主にしてしまうんだ。鬼ぃさんみたいな強い人相手だと直接接触させる必要があるけどね」
無邪気に笑うカイト。俺の胸には埋め込まれた偽核が怪しく光を放っていた。




