299 鬼と鬼
「もらったぞ!これでお終いだ!」
放たれた玄武が油断しているカイトへと迫る。これなら避けられまい、完璧なタイミングだ。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「玄武を受けた以上お前はもう自由には動けない。無駄な抵抗は辞めろ、お前の負けだ」
玄武は命中した相手に重力の枷を与える技だ。今回カイトへは普段の10倍の重力を与えた。
「何かおかしい…後ろか!?」
突如背後から鋭い殺気を感じ味を翻す。間一髪俺が立っていた場所へと剣閃が走る。
「惜しいな~今のは完全に決まったと思ったのに」
「…月下の外套の幻影か。敵に回すと本当に厄介な能力だな」
「へへへ、鬼ぃさんの戦い方を見て勉強したって言ったでしょ?」
俺の動きはある程度カイトに研究されている。それに加えて膨大な数の装備品。参ったな、正攻法でコイツを倒すのは相当な難易度だぞ。
『ユイトさん。こっちは私1人抜けても大丈夫みたいです。いつでもいけます!』
どう攻めようか悩んでいたところにサクヤからの念話が飛んできた。これで鬼神化の準備は整った。
「あれ?もしかして今のでお終い?僕の知ってる絶対王者はこんなもんじゃ無かった筈だけどな?」
「がっかりするにはまだ早いぞ。これが…俺の本気だ!鬼神降臨!」
鬼神刀咲夜を構え意識を集中する。自分が自分で無くなる感覚、頭が冴え渡り身体に力が漲る。
「鬼神降臨か…やっぱり凄いや鬼ぃさん。その技を完全に自分のモノにしたんだね」
「まだまださ。正直この技を使いこなすには俺の力量は足りてない。辛うじて扱えてるってところだな」
「それでも凄いよ。僕も鬼神降臨を試したけど意識を保つので精一杯だった。とても今の鬼ぃさんみたいに会話する事なんて出来なかったよ」
カイトの言う通り鬼神化している間は自分が酷く暴力的になっている自覚がある。何もかも壊したくなる衝動を抑え込まなければこの力に飲み込まれてしまうだろう。
「でも鬼神化した鬼ぃさんを相手にするなら僕も手段を選んでられないね…鬼神降臨!」
カイトが手に持つ咲夜を掲げると禍々しいオーラに包まれる。鬼神化で有利になったと思ったがこれでまた条件は五分と五分。カイトは鬼神化を使いこなせないと言っていたが果たして…
「ははははは!やった!やったよ!ちゃんと意識を保ててる!最高の気分だ!」
「この状況で初めて鬼神化を成功させたか…とことん厄介なヤツめ」
俺と同じ様にカイトの頭にもエネルギーが凝縮された角が生える。赤と黒の混ざり合った禍々しい色だ。