294 自我
「NPC…?まさかそれはこの世界の人達の事を言っているのか?」
「やだなぁ、そうに決まってるじゃないか。こんな得体の知れない世界の人間なんてゲームのNPCと一緒。僕が強化した魔族達がNPC共を蹴散らすのが今から楽しみだなぁ」
無邪気な笑顔でケラケラと笑いながらカイトが言い放つ。自分がやろうとしている事がどれだけ残酷で恐ろしい事かを全く理解していない。
「ふざけるな!この世界の人間がNPCだって?違う!皆自分の意思を持ち笑ったり泣いたりしながら毎日を送っている血の通った人間だ!」
「そんなに熱くならないでよ、怖いじゃないか。鬼ぃさんの言った通りだとしても僕にとってはどうでもいいんだ。もしそうだとしても僕は嫌な思いをしないからさ」
「なっ!?自分が嫌な思いをしなければ知らない誰かがどうなっても良いって言うのか…なら魔族の方はどうなんだ!?お前は魔族を導く立場にいるんだろ?彼らが死んでもお前は何も感じないのか!?」
「アハハハハ!そう言えば向こうで鬼ぃさんの仲間達が失敗作の三姉妹と仲良くしてたね。じゃあ魔族にも自我が有るって勘違いしても仕方ない。うんうん、なる程ね」
失敗作の三姉妹?アン達の事だろうか?コイツは何を言っているんだ?彼女達には確かに自我がある。
「今日は機嫌が良いから教えてあげるよ。魔族には元々自我が無いんだ。魔族の感情や自我は空っぽの器に僕がインプットした偽りの自我なんだよね」
「お前がインプットしただと?嘘だ、アン達には確かに感情が有る!」
「だーかーらその感情も僕が作った偽りの感情なんだって。うーん、どうしたら信じて貰えるかな?そうだ!ゲルト、お前はどうして死んじゃったジーの事を慕っていたんだい?そこの鬼ぃさんに話してあげてよ」
突然話を振られたゲルトが呆然と立ち尽くす。やがて声を捻り出す様にポツポツと語り始めた。
「私がジー様をお慕いした理由…思い…出せない…そもそもどうしてジー様と出会ったのかも…ウゥッ!頭が…」
「うんうん、思い出せない筈だよ。だってジーを慕う様にお前を作っただけだからね。あの三姉妹だってお互いに姉妹だと思う様に作っただけさ。だけど人間の感情を参考にし過ぎたのはちょっと失敗だったかな」
アン達の自我がコイツによって作られた。にわかには信じがたいが目の前で頭を抱え苦しんでいるゲルトを見ると嘘は言っていない様だ。
「じゃあ僕は帰って実験の詰めに入る事にするよ。今回のデータが有れば次からは楽に魔族とMMORPGの装備品との融合ができそうだ」