293 カイト
「朱雀の炎を消しとばした!?そんな馬鹿な!その炎は標的を燃やし尽くすまで消える事は無い筈だぞ!?」
決して敵を逃す事の無い朱雀。今まで炎の付いた部位を自ら切断しこの技から逃れた者はいたが炎自体を掻き消されたのは初めてだ。
「流星の槍の力を身体に取り込んだのか?ハハハ…滅茶苦茶やってくれるな」
「私は一体…?それにこの姿は?」
「ゲルト!?意識が戻ったのか?」
炎の中から現れたゲルトはその姿を変貌させていた。全身から金属の様な光沢を放ち左腕は腕自体が槍の様な形になっている。
「分からない…記憶が酷く曖昧だ…」
「いゃあ、やっと実験が成功したよ。久しぶりだね、鬼ぃさん」
「誰だ!?」
背後から聞こえてきた誰かの声。振り向くとそこには1人の少年が満面の笑みを浮かべていた。整った顔に少し長めの黒髪、見ようによっては女の子の様だ。
「やだなぁ、僕の事忘れちゃった?鬼ぃさん?」
「その呼び方…パフィン村とザラキマクで会ったヤツか?」
「うん、覚えててくれて嬉しいよ。そう言えばまだちゃんと名乗った事は無かったね。僕の名前はカイト、鬼ぃさんと同じ日本人だよ。よろしくね」
カイトと名乗った少年は自分の事を日本人だと言った。この世界の人間は日本人なんて言葉を知らない筈だ。だとするともしかしてカイトも…
「日本人だって?なんでこの世界に俺と同じ日本人が?」
「鬼ぃさんと一緒だよ。MMORPGで遊んでたら急にこの世界に飛ばされてね」
「初耳だ。創造神様は俺以外にこの世界に元の世界の人間がいるなんて言ってなかったぞ?」
「そりゃ創造神は僕の事なんて知らないだろうからね。僕をこの世界に呼び寄せたのは偽神だよ」
MMORPGの世界から偽神に呼び寄せられた?何故偽神がこの世界に異世界の住人であるカイトを呼び寄せたんだ?コイツには色々と話を聞く必要がありそうだ。
「ようやく魔族とMMORPGの装備品を融合させる事に成功したよ。いゃあここまで長かったなぁ。やっぱり強い負の感情を持たせないとダメだったんだね」
「何を言っているんだ?全く意味がわからない。ゲルトと流星の槍を融合させる事がお前の目的だったのか?」
「僕は偽神の話に乗ったんだ。協力関係ってヤツだね。偽神はただ人間と魔族を戦わせたいだけだけど僕はそれじゃ満足できない。圧倒的な力で僕の手駒がNPCを蹴散らすのが見たいんだ。その為には魔族の強化が必須だから実験が成功して本当に嬉しいよ」