028 狂人の弟子
夕暮れの大通りで男女が言い争いをしていた。
1人は高そうな服を来た中年の男性、もう1人は俺と同じ位の年齢の少女だ、何やら少女が男性に食ってかかっている様だった。
「領主様からの命令なんだ、ジンク一門の錬金術士に魔石を売らない様にと通達があってね、申し訳ないがタリアムちゃんには売れないんだ」
「だから何でそんな命令が出たのよ!ジンク一門ってこの街に先生の弟子は私しかいないわ!もういい!直接領主の館に乗り込んでくるから!」
どこかに行こうとする少女の目が俺の手元で止まる、そしてタリアムと呼ばれた少女は俺に駆け寄って来て叫んだ。
「そこの貴方!その魔石を私に売って頂戴!」
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「凄い本の数ですね~タリアムちゃんは本が好きなんですか?」
「私が好きなのは研究よ、このアトリエは先生の形見なの、ほらお茶が入ったわ」
俺達はタリアムと呼ばれていた少女のアトリエ兼住居に半ば拉致の様な形で招かれた。
「それで幾らなら売ってくれるの?ファームライノの魔石でしょ?相場だと金貨80枚ってとこかしら」
「凄いな、ぱっと魔石を見ただけでどのモンスターか分かるのか、俺には見分けがつかないぞ」
「私もムリ、何が違うの?」
アイギスが色々な角度から魔石を覗きこんでいる。
「鍛えられたからね、私の先生は狂人なんて呼ばれてたけど腕は凄かったのよ、先代の領主様にも認められて色々な研究をやっていたわ」
はて?狂人?どこかで聞いた事がある様な気がするが何だったかな。
「別に売っても構わないよ、幾つか同じ物を持ってるし」
「ありがとう、これでようやく研究が進められるわ、バカ領主のせいで魔石が手に入らなくて困っていたのよ」
また領主か、本当あちこちに嫌がらせしているな、ロクでもないヤツだ。
「研究って何をしてるんだ、良かったら教えてくれないか?ちょっと興味がある」
「そうね、聞いても笑わない?転移魔法陣の研究よ」
「転移魔法陣?聞いた事が無いな」
思い当たる物はあるVRMMOにもあったワープ装置の様な物じゃないか?だとしたら凄い技術だ。
「先生がやっていた研究を私が引き継いだの、転移魔法陣ってのはこういう事」
タリアムは机の上に模様が描かれた紙を離れ離れに2枚置き片方の紙の上に人形をを置いた。
「ちょっと魔石を貸してもらえる?すぐに返すから」
もう1枚の紙に魔石を近づけると人形が一瞬で移動する。
「まだ基礎理論しか完成してないんだけどね」
誇らし気にタリアムは微笑んだ。




