290 縦横無尽
「くそっ!流星撃をこんなに連続で使われたら攻撃出来る隙が無い…って言ってるそばからまた来やがった!」
「はっはっは!流石の貴様でも今の私には手も足も出せない様だな!」
上から下へ、左から右へとゲルトが俺を狙い縦横無尽に駆け回る。狩猟神の首飾りの力で流星撃を避けられているがこのままでは防戦一方だ。
「この大空洞で流星の槍を相手するのはかなり骨が折れるな。ゲルトのヤツ天井や壁を蹴り付けてノータイムで流星撃を繰り出しているのか?」
MMORPGでも流星の槍を持つプレイヤーと戦った事があるが彼等も障害物等を蹴りながら意表を突いたタイミングで流星撃を放つ事を得意としていた。閉鎖されたフィールドで戦う時には苦労させられた記憶が有る。
「この状況で考え事とは余裕だな!」
「ちょっと昔を思い出してただけさ。おかげでお前を倒せる方法も思いついたぜ?」
「ぬかせ!今の私に敵は無い!捉えたぞ!死ね!ユイトオォォォォォ!」
ゲルトが更に速度を増し流星撃を放つ。そして流星の槍の先端が俺の胸を貫いた。
「やった…やったぞ!見ていてくれましたかジー様!?ついに私はジー様の仇を討つ事が出来ました!」
「良かったな。だけど油断し過ぎだ、確実に敵を倒した事を確認するまでは気を緩めるべきじゃない」
「!?なっ!何故貴様が私の背後に!?確かに私の槍は貴様を貫いたぞ!?」
「槍を良く見てみろ、本当に俺を貫いたなら血の一滴でも付いているんじゃないか?」
ゲルトが驚いた顔のまま手に持つ流星の槍を見つめる。槍には一滴の血も付いてはいない。それもその筈、ゲルトの放った流星撃は俺に掠ってもいないのだ。
「何をした!?しかし話しかける余裕があるなら私を斬り付けておくべきだったな!」
すぐに戦闘態勢へと戻ったゲルトが距離を取る。また流星撃を繰り出すつもりの様だ。
「確かお前を殺そうと思えば殺せただろう。だけど確認しておきたかったんだ、お前もあのレブとか言う魔族と一緒で他の魔族が命を落とす事になっても偽神の為に闘争を望むのか?」
「わからぬ…私の望みはただ一つ。ジー様の仇を討つ事だけだ。貴様を倒せたらその後の事などどうでも良い」
「そうか…俺も死にたくは無い。残念だよ、仲間の仇を取ろうとするお前なら他の魔族の未来を考える事だって出来ると思っていたんだ」
「ジー様が存命ならば貴様の話にも耳を傾けていたかも知れぬ…しかし私は貴様が憎くて憎くて堪らないのだ。自分の意思とは思えぬ程にな!」




